角居勝彦元調教師(59)が競馬を語る月イチ連載コラム「Thanks Horse」は、先月までの第3金曜付掲載からリニューアル。週末に引っ越しました。今回は天皇賞・春に出走する元管理馬アイアンバローズ(牡6、上村)とトーセンカンビーナ(牡7、加藤征)にエールを送ります。(次回の掲載はダービー週の予定です)

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調教師を辞めて2年以上が過ぎ、私の厩舎から転厩していった馬たちもほとんどが引退しました。JRAで現役は10頭ほどだと思います。その中から明日30日の天皇賞・春にはアイアンバローズとトーセンカンビーナの2頭が出走します。

アイアンバローズの上村洋行調教師は、ウチの厩舎の建物を引き継いでいます。私が引退する前から「この厩舎がほしいです」と言ってくれていました。彼は目の病気もあってなかなか順調な騎手人生が送れなかったと思いますが、馬乗りが上手で、馬づくりに取り組むまじめな姿勢を感じていました。今ではリーディング上位に躍進していると聞き、うれしく思います。

そのお兄さんの典久調教助手は、かつてウチの厩舎にいて、アイアンバローズと一緒に転厩する形で、今も担当しているそうです。彼は厩舎全体をとりまとめられる力を持っていて、私としてもお任せできる存在でした。同じく私の厩舎にいた岸本調教助手は、馬乗りにおいて飛び抜けたセンスの持ち主でした。出身が同じで意思疎通がしやすいのはあるかもしれません。もちろん、ほかのスタッフも優秀なのでしょう。

アイアンバローズとは4歳2月までのつき合いでしたが、能力の高さは感じていました。ただ、調教でも抑えきれず乗り難しい面があって苦労していました。私の手を離れる頃になって、気性が少しずつ良くなってきた感じはありました。

猪熊広次オーナーは、馬選びからレース選択、騎手の起用に至るまで、ほぼすべてを任せてくださる方でした。19年にロジャーバローズでダービーを勝てたのは本当にいい思い出です。今も引退競走馬の活動を支援してくださっています。

トーセンカンビーナは厩舎が解散する少し前に加藤征弘先生の厩舎へ転厩しました。もともと体質が弱い馬でしたが、資質は高かったです。私にとって最後の天皇賞・春となった20年には5着と頑張ってくれました。今年で7歳ですが、息の長い活躍をしてくれているのはうれしいです。

引退してから競馬場を訪れたのは1度だけです。それも東京競馬場のトークショーに出席したもので、レース自体は見ていません。よく「厩舎にいた馬のことは今でも気になりますか」と聞かれます。布教所の活動などで土日に忙しいのも確かですが、あえてレースを見ないようにしているところもあります。見ると「自分ならこうしていた」と思ってしまったり、勝ったら「よかった」と思う中でちょっとだけ悔しくなったり…(笑い)。元調教師の性分なのかもしれません。

もちろん、2頭のことは応援します。リアルタイムで見られるかは分かりませんが、まずは無事に走って、できればいい結果を出せることを願っています。

◆角居厩舎出身の主な現役馬 天皇賞・春出走の2頭以外では、ロータスランド(牝6、辻野)やファルコニア(牡6、高野)が重賞を勝つなど活躍している。アイアンバローズと同じ猪熊オーナーのグレートバローズ(牡6、辻野)は今月8日に福島で障害オープンを制した。

■「TCC Japan」が渋谷にカフェオープン

引退馬支援活動に取り組む「TCC Japan」は、26日に東京都渋谷区で「Bafun Yasai TCC CAFE」をオープンさせた。馬ふん堆肥でつくられた野菜や果物を材料にした食事を提供する。セレモニーに出席した角居氏は「馬ふんという“厄介もの”の活用をクローズアップできることは有益だと思います」と期待する。

また、角居氏が代表理事を務める一般財団法人ホースコミュニティが設立10周年を迎え、5月1日に京都市内で記念式典を開催する予定だ。角居氏は「馬を継続して預かってくださるクラブを表彰する場にもなります」と説明した。