ダービーのような大レースでは、さまざまなジンクスやデータを耳にします。私も調教師時代に記者の方からよく聞かれました。

ジンクスに縛られると、人間は不安で硬くなってしまいます。そういう人が、騎手、調教師、厩舎スタッフ…と増えていくと、敏感な動物である馬にも伝わり、大きなマイナスにつながります。それがジンクスの怖さだと思います。

私は逆に、そういうものを破ることに生きがいを感じるタイプでした。挑戦が難しいほど、成功した時の喜びは大きいものです。

ウオッカが出走した07年の当時には、牝馬は64年前のクリフジを最後に勝っていませんでした。それは気になりませんでしたが、出走を決めた後で「種馬選定のレースなのに」といった批判的な声もあると聞き、その出走枠を1つ削ってしまった責任は感じました。

一方で勝算はありました。1600メートルで1分33秒台の持ち時計がありましたから、距離延長分の800メートルを1ハロン13秒前後で走れば、当時の勝ちタイムの目安だった2分24秒台に届きます。オーナーとも、数字の上では通用するという意見は一致しました。

それでも、実際に勝った時にはびっくりしました。まさか、初出走で勝てるとは…。1つのジンクスを破ってくれた偉業だと思います。出走枠を削った責任を果たすことができたという気持ちもありました。

ダービーでは「テン乗りは勝てない」ともいわれます。サートゥルナーリアが出走した19年は、皐月賞を勝ったルメール騎手が騎乗停止で乗れなくなり、レーン騎手にお願いしました。この時もマスコミの方から「テン乗りで大丈夫ですか?」とよく聞かれました。私は気にしていなかったですし、外国人のレーン騎手がジンクスに縛られることもなかったでしょう。結果は4着でしたが、テン乗りだから負けたのではなく、敗因は展開など別のところにあったと思います。

これだけジンクスが取り上げられるのは、ダービーならではでしょう。ファンの方々にとってもすごく盛り上がるレースで「ダービーだけは馬券を買う」という人もいます。そんな中で、おそらく予想のファクターとして楽しまれているのではないでしょうか。

ただ、当事者としては、セオリーを守っているだけでは、新しい時代はつくれません。開業前に藤沢和雄先生の下で研修させていただいた時に「『普通』って何だ?」とおっしゃったのを今も覚えています。「普通」にとらわれず、今までになかったことに挑戦すれば、新たな可能性も広がります。「ジンクスなんてない」という気持ちが大事なのではないかと思います。

■能登の地震被災地 サポート呼びかける

角居氏は地震で被災した石川県能登地方へのサポートを呼びかけた。今月5日に珠洲市で震度6強を観測。同市で営む引退競走馬の牧場では、人馬や建物に大きな被害はなかったというが「古い家が多いので、倒壊しなくても柱がゆがんだり瓦が落ちたりして、余震でもさらにダメージを受けています」と現状を伝える。23日には政府から激甚災害の対象に指定する見通しが示された。「ふるさと納税や寄付、ボランティアなど、珠洲の人たちが元気になれるように支えていただければ」と願っていた。