「越前のドクターK」と呼ばれた男が、広島の地で日々鍛錬を積んでいる。

高卒ルーキー左腕の玉村昇悟投手(19)だ。福井・丹生(にゅう)から昨年ドラフト6位で入団。現在は2軍で体作りを中心に練習を続けている。

しなやかなフォームから切れ味抜群の直球を投げ込む。最速147キロの直球を武器に、昨夏はエース、主将として無名校を福井大会決勝まで導いた。大会5試合で「52奪三振」の新記録を打ち立てた逸材。今は持ち球のカーブ、スライダー、チェンジアップを磨きつつ「動くボールを覚えたい」とシュートを習得中だ。

昨年12月に行われた新入団選手発表会見では、地元テレビ局のアナウンサーから「何か地元の名産を交えて今後の抱負をお願いします」との振りに、こう答えた。「僕の地元でも取れる越前ガニが全国でも有名。越前ガニも一緒の赤なので、その赤に負けない投手になりたいです」。場内につめかけた多くの関係者、ファンを前に堂々と言い切った姿に、強心臓を感じた。

1月の新人合同自主トレ中に、広島・廿日市市内の大野練習場の近くにある坂で走り込みが行われた。佐々岡監督が見守る中、約140メートル(高低差20メートル)の坂道ダッシュ10本を敢行。終了後に今にも倒れそうな新人がいる中で、玉村はケロッとした表情で「まだ全然大丈夫です」。余裕の反応には驚くしかなかった。

現在は「脱力投法」を身につけるべく、練習を続ける。「高校は力いっぱい投げていたんですけど、力を入れずに、6割の力で8割の球を投げる意識に変わりました」。参考にするのは同じ左腕のDeNA今永昇太。「直球も変化球も全部同じフォーム」だという。加えて「楽そうに投げているので、いいなと思いました。自分も力を抜いて『無』の状態から投げるようにしています」と明かした。

体作りも順調で入団から3キロ増の78キロとなった。体重にとどまらず、身長についても「ストレッチの成果かわからないですけど、姿勢がよくなったのかな」と、ここ2カ月で1・5センチプラスの178センチまで伸びたという。「高校3年間で3センチだけしか伸びなかったですけど…」と笑った。

1年目の目標について玉村は「1軍に行きたい」と力を込めた。「1軍で投げることを経験して、2年目からはずっと1軍で投げられるように、1年目から勝負していきたいです」。身体も技術も伸び盛りの「金の卵」。今後の成長、活躍に注目していきたい。【古財稜明】