「科学」が「シン時代高校野球」を盛り上げるかもしれない。21年夏の甲子園をかけた広島大会。公立校・祇園北がノーシードから創部初となる決勝進出の快進撃を見せた。その野球部を全面的にバックアップしているのが「科学研究部」だ。

祗園北の野球部員(中央)と科学研究部に所属する生徒たち(撮影・古財稜明)
祗園北の野球部員(中央)と科学研究部に所属する生徒たち(撮影・古財稜明)

一般的には野球部とあまり交わることのない理数系の部活動が、「データ解析班」の役割を担っている。同部には23年度は5人が所属し、そのうちの3人が「野球部兼科学研究部」として活動。選手ではない3人は、月、水、金曜日はグラウンドに出てデータ収集や練習のサポートを行い、火、木曜日は教室で研究を行っている。

22年から「総合的な探求の時間」が高校の必修科目となり、学校全体も部活動の探求を推奨している。16、17年と野球部顧問を務めていた西武宏教諭が18年に科学研究部の顧問となったこともあり、異なる2つの部活が連携を深めるようになった。野球部員もそれぞれが野球に関する探求のテーマを持ち、授業と部活に生かす。1人1台パソコンを持ち、データや研究結果が共有できる環境にある。

研究の対象は主に自チームの試合を中心に行われる。将来の夢は「侍ジャパンのアナリスト」という「野球部兼科学研究部」の辻雄大さん(3年)は、得点力アップへ「ファーストスイングの重要性」を数字で実証した。スコアブックなどから約260試合のデータを徹底的に調べ、カウント別の打率を表にまとめた。

カウント1-1時の打率を分析し、最初のストライクが「空振り」「見逃し」で分けて調査すると、明確な数字が結果に表れた。辻さんは「バットを振った後の打率の方が、振ってない打率よりも1割以上高かった。(早いカウントでは)『自信を持ってバットを振っていくべき』っていう提案ができた」。チーム方針を数字で具現化して、選手に落とし込んだ。

研究は技術だけでなく、メンタル面にも及ぶ。野球部の河内祥吾内野手(2年)は練習試合では結果が出るが、公式戦ではなかなか結果が残せなかったという。原因の1つとして試合前日の睡眠の質の悪さが浮かび上がった。東洋大の協力のもと血糖値を計測する機械を2週間着用して調査すると、アドレナリンの影響もあり、睡眠時に血糖値が高くなっていたことが判明。改善策として有効だったのが「サウナ」だった。

「サウナ」には交感神経と副交感神経の活動バランスを整える効果があり、それによって血糖値の上昇を抑制することができる。サウナ関連の資格を持つ篠原凡監督(36)も同行し、公式戦の2日前、前日の練習後にサウナに直行。睡眠時に120近くあった河内の血糖値が約半分になり、熟睡につながった。篠原監督は「公式戦でもいい形で結果が出るようになった。(探求で)誰かが持ち帰った結果は、チームで共有すればチームの財産になる」と相乗効果を期待する。

他にも野球データ分析ツールの「スタッツポッド」をフル活用し、投手はコース別のストライク率やカウント別の配球の傾向を見て、弱点を見つけ出す。また、肘への負担などを数値で確認できる「パルススロー」を用いて練習強度のコントロールをすることや、肘に負担のかからない変化球の研究を行う。さらに「ヤクルト村上選手がどうすればメジャーで3冠王になれるのか」や「筋力トレーニングと打球速度の関係性」など、研究のテーマ設定は多岐にわたる。

「野球部兼科学研究部」の3人は、昨年12月に東京で実施された大学生、高校生が参加する「第3回野球データ分析競技会」の決勝に進出し、日本人投手がメジャーで活躍する要因としてフォークやスプリットが鍵を握っていることを研究で導き出し、高校では大会初の「優秀賞」に輝いた。

篠原監督は「課題に対してどうアプローチして、突き詰めていくのかは受験勉強、大学、社会人でもすごく生きると思う」と思い描き、「(センバツの)21世紀枠でも、探求活動という新しい文武両道の形でお呼びがかかってもいいんじゃないかな」と期待する。高校野球の新しい形をリードする存在として、21年夏に続く「祇園北旋風」を全国に巻き起こす。【古財稜明】