プリンスと会うのは、12年ぶりでした。新庄さんとハグを交わしてから始まった取材は、まさに“ぶっ飛びインタビュー”になりました。

「取材する側」と「される側」の気持ちが合致するのは稀です。我々は勝負の中身を記事にしますが、選手の心根を書き尽くすのは極めて難しいからです。

阪神の中心選手は、常に取材攻勢にあい、不振に陥ると大バッシングです。なかでも新庄さんは、なにをやっても「1面」になる特異なキャラクターでした。

そのうちメディアとの会話が消えていきます。インタビューのなかでも「マスコミがおれをダメにしたよね」と語ったほどです。

野球人生の転機は、メジャー移籍です。手前ミソですが、彼は「おれが変わったの、寺尾さんだよね」と打ち明けます。

新天地には日本から連日60人もの取材陣が殺到しましたが、当の本人はしゃべらない。そこで、わたしは本人と向き合って、1日1回のオフィシャルな会見を約束させたのです。

最初は渋々でも、新庄さんが乗ってきた。そこにはもっとも信頼した新米通訳「ケン」の人柄に、日刊スポーツ田崎高広カメラマンの協力がありました。

「あっち向いてホイ打法!」「成功するまで日本に帰らない」「(捕手)ピアザをカラオケに誘った」…、新庄トークがさえまくって、徐々にメディアと打ち解けていくのです。

派手なパフォーマンスからとんでもない人物と思われますが、実は、真面目で、ピュアな人。阪神キャンプ取材の記事に、2人で海岸を散歩したエピソードが掲載されています。

話題は「恋愛」--。当時、ある女性と付き合っていた新庄さんは「おれって一途。だから毎日電話しなくちゃダメ。男はね、思いやりを大切にしなくちゃいけません」と語っている。

また、もっとも緊張してみえたのは、野球ではありません。シンガー・ソングライターの福山雅治を紹介すると、さすがにはしゃいで、打席に入るテーマソングが「桜坂」になったのです。

天真らんまんで、ストレートで、今でも光を放ち、オーラを感じるプリンスをインタビューしていると、球界のスター不在にも気付きました。

ディス・イズ・スター? 久しぶりに「シンジョー語」がフラッシュバックします。ご高覧いただければ幸甚に存じます。【寺尾博和】