エースが帰ってきた。楽天則本昂大投手(28)が6回3安打無失点6奪三振の快投で、チームの連敗を10で止めた。

今年3月11日に行った右肘クリーニング手術後、初の1軍登板で求められた仕事を完遂。低迷していた打線も呼応し、6得点と久々に投打がかみ合った。開幕投手に内定していた右腕の1勝で、勝率5割だったチームは再び貯金1。「第2の開幕戦」から浮上していく。

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主役は舞台に上がる直前、天を仰いだ。マウンドの頂上から数歩下がった中腹地点。則本昂は両腕を広げ、息を大きく吐いた。降り注ぐ歓声に身をゆだねると、わずかに唇が動いた。勝つ--。「自分の復帰戦より、チームが本当に苦しい時期。何とかチームが勝つという気持ちだけで投げました」。思いをつぶやき、18年10月13日以来、269日ぶりの幕が上がった。

まばゆいばかりに「エース」を表現した。初球、外角低めの伸びる軌道で149キロ直球を放り込んだ。「ストライクを取れて落ち着きました」。1球で場の空気をつかんだ。福田を真っすぐ3球で追い込むと最後はフォークを落とし、バットに空を切らせた。右肘手術の影はみじんもない。先頭を三振に斬ると、後はアウトを積み上げるだけ。2、3、6回と得点圏に走者を置いたが、内角の直球でねじ伏せた。

連敗すらも演出の1つに変えた。敗れれば球団最悪に並ぶ11連敗、そして借金生活へ突入。誰もがエースが断ち切ると信じた。平石監督は筋書きを頭に描いた。「ノリが帰ってくるまで5割で、と今年はスタートした。高い授業料を払ってしまいましたけど。シナリオ通りというか」と笑った。勝率5割で、開幕投手を予定していた右腕が復帰する。主将銀次も試合前のミーティングで「借金があるわけではない。下を向くことはない」とハッパを掛けた。負け続けた悲壮感はなく、第2の開幕戦としての希望が漂っていた。

主演としての自負も示した。「後半戦をフルで戦うために」と開幕前に不調が続いた右肘にメスを入れることを決断。リハビリでは釜田、由規らケガに苦しむ仲間の思いに触れた。また、2軍の選手、スタッフと長い時間を過ごすことも初めての経験。くすぶる思いも、きらめく1軍への憧れも受け止めた。「リハビリしている選手が、勝つ力になった」と背負ってきた思いをマウンドで示した。

復活を遂げたお立ち台で「自分のいる場所はここだなと思いました。この先はバンバン飛ばして勝っていきたい」と言った。連敗脱出、復活勝利。周囲が願ったシナリオを見事に演じきる、これがエースだ。空席だった主役の座に、則本昂が戻ってきた。【島根純】

<楽天則本昂のこれまで>

2月23日 右前腕の腫れで巨人とのオープン戦先発を回避

3月11日 右肘のクリーニング手術。全治4カ月の診断

5月25日 術後初めてのブルペン投球

6月12日 1軍に合流

同20日 イースタン巨人戦で実戦復帰。3回1失点で最速は152キロ

同25日 イースタン西武戦で6回無失点の好投。最速152キロ

7月2日 イースタン・ヤクルト戦で6回1失点と好投。球数も108に

同3日 7年数十億円規模の大型契約を新たに結んでいたことが明らかに。石井GMは「仙台にしっかりと骨をうずめるという話をした」