詰まりながら右前にポトリ。少し不細工な安打を見届けた後、日刊スポーツ評論家の岩田稔氏があらためて「江越推し」を力説していた。3月6日の楽天とのオープン戦。6回に代打登場して、1ボール2ストライクから直球をしぶとく押し返した場面の直後だ。

「去年までだったら、あのボールも空振りしていたかもしれない。ずっと使い続けたら、すごいことになる気がするんやけどな」

今春、阪神の江越大賀が評判だ。もともと身体能力は超一級品。外野守備と俊足は飛び抜けており、「あとは打撃」と言われ続けて何年も過ぎていた。そんな未完の大器がついに変わり身を披露し始めているのは、虎党の皆さんならご存じの方も多いだろう。

岩田氏はキャンプ評論で沖縄・宜野座に上陸した初日から江越に興奮していた。2月20日の練習試合・中日戦。9回に右中間フェンス直撃の三塁打を決めたゲームだ。

「江越、いいで! 去年までと全然違うもん」

昨季までともに汗を流し続けた元同僚。2軍鳴尾浜球場での苦闘も目に焼きつけてきた先輩だから、言葉に説得力があった。

江越は今年1月、昨季パ・リーグ本塁打王のオリックス杉本裕太郎に弟子入りしている。広島で合同自主トレに参加し、本人いわく「確率を上げる目的で」アッパー気味の打撃フォームを取り入れた。このスイング軌道を、岩田氏は絶賛してやまない。

「ヘッドが返らなくなっているし、何よりボールに当てられる面がだいぶ増えている。去年までは点で打っていたのが、線で打てるようになっている。投手のボールは重力もあるから、曲がるか落ちるかしかない。少しずつ落ちてくるボールの軌道と、やや下から出てくるバットの軌道が合っている。イメージでいうと、ヤクルト青木宣親さんのスイング軌道に近くなった感じかな」

ややアッパー気味のスイングだと内角高めの直球に苦しめられる可能性もあるが、岩田氏は「そこに投げ続けられる投手はそんなにいないから」と意に介さない。

「あれだけの足と肩があるのだから。もう少し打てるようになれば、使い続ける価値がある選手だと思う」

激しい外野レギュラー争いで生き残れるか。勝負の3月、ロマンあふれる男の動向から目が離せない。【佐井陽介】