ボクシング界は7月に興行を再開して約2カ月になる。全国の新人王予選で始まり、その後はタイトル戦中心。観客も地方から徐々に入れ、後楽園ホールでも13日から有観客開催が始まった。タイトル戦はないが、新たな路線を行く興行が、31日に新宿FACEで開催される。

ファーストレートPresents A-SIGH BOXINGは8回戦以下6試合が予定される。八王子中屋と横浜光の両ジムが共催。ITを活用して宣伝、収益化を目指している。期間限定の有料オンラインサロンを開いているが、当日の観客100人もその会員を招待する。

メインは坂井祥紀(29=横浜光)の国内デビュー戦。メキシコでデビューし、米国を含めて23勝(13KO)11敗2分け。WBC世界ユース王座を獲得した実力が試される一戦となる。一方で3試合目の63キロ級6回戦の山口拓也(34=ワールド日立)が、ちょっとした注目となっている。

出場選手に1日密着し、YouTubeで紹介している。山口の場合、ジム近くの家賃2万円の6畳間のアパートを直撃。いきなり道で拾ったペットのヒキガエルのチハルが登場する。エサはジョギング中に捕った昆虫か煮干し。山口の朝食も同じ煮干しだった。

徒歩20秒のコンビニで働く。布団の横に置かれたダンベルなどで休憩時間も筋トレ。中学から引きこもり、漫画やアニメを見る日々だったという。唯一興味があったのが格闘技や体を鍛えること。25歳で実家を出て、近くにあるワールド日立ジムに入門した。

10年前に亡くなった父の形見のガラケーを今でも使っている。冷蔵庫はなく、洗濯も手洗い。ガスを契約していないため、冬場は電気ポットのお湯で体を洗う。極貧生活も認知症の母のため。今後に備えて貯金しているという。

クラウドファンディングを活用して、広告やグッズを返礼に資金集めしている。独特なのが激励賞を1口500円で募るもの。選手の取り分は90%。山口のユーチューブは1日に公開されたが、25日時点で34万回以上視聴され、激励賞はなんと70万円を超えた。

総額も150万円を超えたが、山口はメインの坂井の倍でほぼ半分を手にすることになる。13年デビューから4勝(2KO)11敗2分け。成績はパッとしない。山口の生活ぶりや身の上などが共感を呼んでいるようだ。18年まで5連敗も、昨年唯一の試合で日本王座挑戦経験ある相手に勝利している。

興行が再開し、熱心な観客の拍手が選手を後押しするが、歓声が沸くような活気には程遠い。それでもドラマはさまざまある。大会MVP投票権も1口500円で購入できる。ここでも山口が奇跡を起こすか!?【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)