大関の座をめぐる“入れ替え戦”の様相を呈してきた。関脇貴景勝(22=千賀ノ浦)が5敗目を喫し、10勝以上が目安とされる大関昇進へ後がなくなった。鋭い出足が影を潜め、平幕逸ノ城にはたき込まれた。千秋楽は、かど番脱出へあと1勝としている大関栃ノ心との顔合わせ。勝てば昇進へ前進し、負ければ2場所連続で見送られる可能性が高い。栃ノ心は敗れると大関から陥落する。横綱白鵬は、無傷の14連勝で42度目の優勝へ王手。1敗の逸ノ城が追走する。

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生命線の低く鋭い出足は見られなかった。貴景勝は頭からぶつからず、もろ手で押し込むことを選択したが、下半身は置いてけぼり。幕内最重量で226キロの逸ノ城に当たりを受け止められ、前傾の貴景勝はたちまちはたき込まれた。立ち合いで先に手をつかれたのは、7日目の大栄翔戦以来今場所4回目。立ち合いのタイミングが合わなかったように見えたが「悪くはなかったと思う」と、言葉少なに語った。

千秋楽は大関の座を懸けた一番となる。相手はかど番脱出へ、あと1勝としている栃ノ心。昇進目安が10勝以上とされる中、貴景勝は勝てば2桁白星に到達する。星勘定はあくまで目安だが、平成に大関昇進した25人のうち、1桁白星で昇進直前の場所を終えた力士はいない。勝利が絶対条件だ。

崖っぷちに立たされたが淡々と前を向いた。「切り替えて、明日集中していきます」。感情を起伏させない姿は、しこ名を体現する。前師匠の元貴乃花親方が尊敬する上杉謙信の後継者で、武将の上杉景勝(かげかつ)が由来。山形県米沢市にある上杉記念館の担当者は、景勝の人物像を「無口で一喜一憂しないところがある」と説明する。貴景勝は17年初場所で新入幕を果たし、しこ名を佐藤から改めた時に「感情を表に出さない人というのは知っている。日本人の国技らしく勝っても負けても(感情を表に出さない)という精神が合っている」と好感を抱き、大関とりの重圧の中でもそれを貫いている。大一番へ、武士道を重んじる22歳の真価が問われる。【佐藤礼征】