10度目の正直で、業師が泣いた。西前頭14枚目炎鵬(24=宮城野)が、平幕の妙義龍を寄り切って幕内で初の勝ち越しを決めた。

新入幕の先場所から続いていた給金相撲の連敗を9で止めると、重圧から解き放たれ涙を流した。優勝争いは横綱白鵬が琴奨菊に金星を献上して、鶴竜が再びトップに立った。千秋楽の直接対決で鶴竜が勝てば6度目の優勝、白鵬が勝てば両者による決定戦にもつれ込む。

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10秒間、右手でタオルを顔に押しつけた。給金を直して引き揚げた支度部屋。込み上げてくるものがあるかと問われると、炎鵬はおえつを繰り返して「みんなにいい報告ができる。うれしい」と声を振り絞った。先場所から勝ち越しの懸かった「給金相撲」に限って9連敗。真っ赤な両目に、苦悩が凝縮されていた。

「緊張で硬かったけど、何も考えずに思い切ってぶつかった」。呼吸が合わず3度目の立ち合い。狙った左前ミツは取れなかったが、懐に潜り込んでもろ差し。168センチ、99キロの小さな体を、しぶとく寄せた。12日目に右足首を負傷。13日目からテーピングを施し、痛み止めも服用するなど、満身創痍(そうい)の中でつかんだ1勝だった。100キロ未満の小兵が幕内で勝ち越したのは、97年秋場所の舞の海(99キロ)以来、22年ぶりだ。

前日に兄弟子の白鵬から「負けたら帰ってくるなよ」と、愛のこもったムチをもらった。「見捨てずに言葉をかけてもらった」と炎鵬。この日、白鵬に勝ち越しを報告すると「おめでとう」と、握手を交えて祝福された。NHKの大相撲動画サービスで、常に再生回数1位を記録する人気業師。大歓声と大横綱の期待に応え、表情を和らげた。【佐藤礼征】