若手芸人の中には「高田純次的生き方」に憧れる人が少なくないという。

 ど真ん中に立つわけではないが、いるだけで独特な空気を醸し出す。でありながらひとつの色には染まらない。

 今年のブルーリボン賞(東京映画記者会主催)で助演男優賞となったユースケ・サンタマリア(46)の受賞インタビューで似たような匂いを感じた。

 「バンドをやっても長くて3年くらいしか続かなかった。2カ月くらい集中的にみんなが同じ目的に向かって進んで、終わったらハイ解散。そういう映画とか、ドラマの仕事が僕には合っている気がするんですよね」

 80年代の伝説のバラエティー番組「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)での高田のエピソードを思い出す。「タケちゃんマン」の敵役、ブラックデビルで注目されながら、4回目の放送から、あっさりとこの当たり役を明石家さんまに譲ってしまった。

 「飽きっぽい」と言ってしまえばそれまでだが、ひとつのところに止まることを良しとしない。らしい生き方なのだろう。

 「僕自身は空っぽな人間です。それがバラエティー番組では『ユースケ・サンタマリア』というキャラに成り切る。映画だとさらに役に入って感情を爆発させる。日頃、人はそんなに泣いたり、わめいたりしませんよ。役者の仕事ってそれを爆発させられるだけで楽しいじゃないですか」

 自身を「空っぽ」と言い切る謙虚な姿勢から、バラエティーでの持ち前の「軽さ」や成り切り演技が生まれるようだ。

 受賞作「あゝ、荒野」の岸喜幸監督は、俳優の動きにまかせるドキュメンタリー的演出だ。

 「いつまでもカットかけないから。台本にないところまでずっと自分で演じ続けないといけない。何かが出てくるのをじっと待っているんですよ」と岸演出を振り返った。

 かつてアルバム収録で「共演」した桑田佳祐も「音楽人として唯一無二のアドリブが得意だし(笑い)、瞬発力もある」と認めている。このアドリブ力が岸演出にピタリとはまったと言えるだろう。

 「『あゝ、荒野』の現場の熱量は半端じゃなかった。ボクシングの映画だから(主演の)菅田(将暉)クンとかは、半年間、それこそゲロをはくようなトレーニングを重ねていた。僕はトレーナー役だからそれほどじゃないんだけど、一瞬鋭いところを見せないといけないところもあって。僕にしてはめずらしく1カ月半くらい毎日ジムに通いましたね。ボクサーらしい動きを教える人はいるけど、ミット受けのやり方を教える人はいない(笑い)。苦労したのはその点かな」

 「軽さ」を忘れない言葉の端々に役作りへの真摯(しんし)な姿勢がのぞいた。

 俳優デビューから22年。これまで「賞」には縁がなかった。

 「賞もらった人がいつも言うじゃない。『監督始めスタッフの皆さん、共演者のおかげです』って。なんか、うそっぽいなと思っていましたけど、ホントにそういう気持ちになりますね。僕の力じゃない。作品に恵まれたからいただけるんだって」

 今後については「役者ってしんどいことも多いけど、幸せっ! て瞬間が必ずある。いつも翔んでいたい。思いっきり役の幅を広げたいって思います」。

 もうひとつの対象作「泥棒役者」のセールスマンはいかにもユースケ的な役柄だったが、「あゝ、荒野」の隻眼トレーナーは新境地といえる。

 ひとつ所にとどまらない他にない存在。今後も「新たな顔」を見せ続けてくれるはずだ。【相原斎】

「あゝ、荒野」の1場面 (C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ 
「あゝ、荒野」の1場面 (C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ