人気ドラマ「半沢直樹」で演劇人の快演が止まらない。前半は市川猿之助、市川中車こと香川照之、片岡愛之助ら歌舞伎俳優たちの濃い「顔芸」が話題を呼んだけれど、16日と23日の放送の回では小劇場出身の俳優たちが大活躍した。

16日の回では、帝国航空の財務担当役員の永田を演じた山西惇が半沢に立ちはだかったが、その兄の国会議員役で八十田勇一が出演した。山西は京大出身だが、この2人の共通点はともに、関西を拠点にした劇団「そとばこまち」出身であること。辰巳琢郎や生瀬勝久らを輩出した劇団で、山西と八十田はそとばこまち時代からの付き合いだった。明石家さんま主演の舞台で共演し、日本テレビ系ドラマ「イケ麺そば屋探偵」ではブサイク双子の演歌歌手ユニット「しにものぐるい」役で出演していた。

山西演じる永田は半沢に「あなたからは腐った肉の臭いがする。膿んでただれた肉の臭いです」とまで言われたが、当の山西は放送後のツイッターで「真田丸以来となる堺さんとの対決」「腐った肉の臭い、あらためて聞くとすごい台詞ですね」とつぶやいた。

23日の回では、審査部次長の曽根崎役の佃典彦が半沢を追い詰めた。佃は名古屋を拠点とする「劇団B級遊撃隊」を主宰し、劇作家・俳優としても活動するが、全国区のドラマ出演は珍しい。半沢との頭取室での激突については、同席した大和田こと香川もツイッターで「佃さんは、1日中あの長いシーンを何度も繰り返し撮影したのに、ただのひと言もせりふを間違えませんでした。もちろん堺(雅人)さんも。お二人の完璧さに脱帽して」と絶賛した。

半沢役の堺雅人だって、もともとは早大の学生劇団「東京オレンジ」出身。若い頃は三谷幸喜脚本の「ヴァンプショウ」や三谷作・演出「恐れを知らぬ川上音二郎一座」にも出演していた。根っこは演劇人なのだ。

そのほか、与党幹事長の柄本明、国土交通省大臣の江口のりこは東京乾電池所属だし、帝国航空社長役の木場勝己も小劇場出身で、舞台歴は50年近いベテラン。まだちらっとしか出ていないけれど、首相役の大鷹明良も80年代から小劇場を中心に活躍している。帝国航空のグレートキャプテン役の鈴木壮麻も劇団四季出身で、「ウエストサイド物語」「オペラ座の怪人」「キャッツ」「美女と野獣」などに出演し、退団後も「エリザベート」「レ・ミゼラブル」に出演するミュージカル界で欠かせない存在だ。

半沢の直属の上司である紀本常務役の段田安則も、野田秀樹が率いた劇団「夢の遊眠社」出身で、舞台では演出も手がけている。これからの展開では、この段田演じる紀本常務が半沢の敵役になりそうな予感がします。次回が待ち遠しい。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)