所属事務所の一室で企画会議を何度も開いた。劇中に現代の描写を入れることなどは向井が提案。祖母を尾野真千子(35)が、祖父にあたる夫は自分で演じることも決まった。メガホンは12年「ガール」で演出を受け、信頼を寄せる深川監督に依頼した。

 企画者の1人だが、昨年2月にクランクインした撮影では、演技だけに集中した。映画化まで7年を費やしたが、絶妙のタイミングだった。「劇中の2人が結婚した時、(祖父の)吾郎さんは33歳。ちょうどクランクインした時に33歳だった。20代だったらきっと感覚的に違ったでしょう」。

 完成した作品のエンドロールには「出演」と「企画」として名前が2度登場する。「映画のクレジットって毎回、感慨深い。名前がせり上がってくると、誇らしい気持ちになる。後にも先にも2回出ることなんてないから、感動を2回味わえるのは、すごくぜいたくに思います」。

 製作スタッフに名を連ねて、仕事に対する気持ちに変化が生まれた。まず脚本の重みを再認識した。「会議を重ね、何を伝えたいのか、互いの感覚的なものをすり合わせ、脚本家さんに書いてもらって、1歩ずつ踏み上がっていくものなんだなって」。企画者としての責任も感じた。「大変だけど、その分、やりがいはありました」。さらに「スタッフと俳優はゴールテープを切る瞬間が違う。それを味わえたのはうれしかった。ゴールは3回あった。脚本ができた時、クランクアップ、もう1回まであと少しです」。「もう1回」とは「公開初日」だ。

 貴重な経験を味わうきっかけをくれた祖母とは、小学生の時から10年ほど一緒に暮らした。「感謝を忘れない人で、90歳を過ぎて言葉もあまり出なくなってからも、何かすると『ありがとう、ありがとう』と言う人でした」。映画化の準備が進んでいた3年前、97歳で他界した。「個人的には映画を見せたかったと思います」と残念がるが、まもなく迎える公開初日、朋子さんは天国から「ありがとう」と言ってくれるはずだ。【杉山理紗】

 ◆映画「いつまた、君と」 向井の祖母芦村朋子さんの手記が原作。戦中、戦後と貧しいながらも夫吾郎さんと家族を愛し懸命に生きる姿を描いた。晩年の朋子さんを演じた野際陽子さん(享年81)にとって遺作映画となった。