テレビ時代劇「大岡越前」などで知られる俳優加藤剛(かとう・ごう)さん(本名・加藤剛=たけし)が6月18日午前、胆のうがんのため亡くなったことが9日、分かった。80歳。故人の遺志で6月28日に家族だけの密葬を行い、9月22日に「お別れの会」が東京・六本木の俳優座劇場で行われる。
<悼む>
生真面目な人だった。5年前、延べ5時間に及ぶインタビューに応じてもらったが、質問を吟味し、言葉を選んで答える姿勢が記憶に残っている。
舞台稽古をレール作りに例え、「千秋楽までそのレールの上をしっかり進まなくてはいけないのに、僕の場合はいつも崖っぷちを歩く心境。今でも初日は脚の震えが止まらず、お客さんまで緊張させてしまっている気がする」と明かした。
裏方志望で演劇界に入ったが、絵に描いたような好男子ぶりでいつの間にか表舞台に立たされた。いったん表に立てば生真面目に拍車が掛かる。「コルチャック先生」の上演前にはアウシュビッツまで訪れて本人が座ったイスをじっと観察し、はまり役「大岡越前」では分厚い「大岡忠相日記」3巻を熟読した。細部に至って解説する様子はまるで研究者だった。
「入り込む」役作りは俳優座養成所時代にいきなり主演したドラマシリーズ「人間の條件」の頃からだ。敗残兵のなりきりぶりに、放送が佳境に入った頃、当時同居していた姉は「この頃話しかけるのも怖い顔になってきた」と親に書き送っている。
4年前、出身地・静岡の偉人で「ビタミンの父」と呼ばれた鈴木梅太郎を主人公にした舞台の役作りを兼ねた帰郷に同行した。何でもない食堂のお茶のおいしさに感激すると「そうでしょう。僕も他のことには文句を言わないけど、お茶だけはぜいたくをするんです」。ほっとしたような笑顔が忘れられない。【相原斎】



