映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督、日本公開未定)に主演し、カンヌ映画祭で男優賞を受賞した役所広司(67)が13日、都内の日本記者クラブで、共演の田中泯(78)とともに会見を開いた。

田中は会見の終盤で「一番、感じ続けているのは、一般というか国民というか、多くの人たちを、作る側がばかにしているんじゃないか」と訴えた。ダンサーであり、57歳で俳優業に踏み出し、02年の映画「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督)で銀幕デビューを果たし日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞したキャリアを踏まえ「映画に初めて出てから20年と少し、テレビドラマとかNHKの朝ドラとか出てるんですけど、日本人であるだけで、文化をすごく享受していると、すごく思う。ですから、映画にしてもテレビドラマにしても、見る人を、もっと、もっと引き上げるべく作る必要があるんじゃないか。現在に合わせて作るものばっかりになんですよね」と訴えた。

演じる側として、NHK連続テレビ小説の撮影現場で、痛切に感じた疑問も声を大にして語った。「出演している1人だから、しょうがないんですけど…。NHKの朝ドラに出ている時、一生懸命、笑わせようとする。『どうして、こんなに笑わせなきゃいけないんですか?』って聞いたら『国民が、そうだから』って…冗談じゃないでしょ? と思いました」と、笑わせようとする演出、作り方にあきれたと明かした。そして「(視聴者を)泣かしたって怒らせたっていいわけなんです。反応がある方がおもしろいじゃないですか? そこに、とどまっている…。視聴率の%話ですか、金の話ですか、NHKが? と聞きたくなる」と首をかしげた。

さらに「映画にしてもマイナーだと思って作っている映画の人たちは少数になっていく。何で、自ら少数になっていくの? 僕は少数というのは、多数に対抗すべく、元気ビンビンでやらないといけない。少数がグルーピーになったらおしまい。多数もそう…多数がグルーピーなんておかしい。こんなバカな話はない」と声を大にした。

田中は、役所が「PERFECT DAYS」を、エンターテインメント映画とは対極にある、作家性の高いアート系の作品と位置付けたことに対しても、最後にもの申した。カンヌ映画祭受賞後に、役所と初めてじっくり飲んだことを明かした上で「役所さんは、たびたび『アートな映画』とおっしゃっている。僕は全然、この映画をアートだとは思わない。アートって言った時、特に日本って、反応してしまう物質がまん延している。僕は、この映画こそ普通の映画と人々に受け止めてもらいたい」と訴えた。

さらに取材陣に「皆さんが映画、映像のジャーナリズムがあるとするなら、この映画をアートにしないでください。このレベルが、アートなんて、なるわけがない。絶対に、これは、普通の映画として撮り上げて欲しい…。これこそ、人間が普通に見るべき映画と思っていただきたい」と力を込めた。これには役所も「この映画はアートではありません。人間ドラマです」と続いた。

「PERFECT DAYS」は、ヴェンダース監督が東京・渋谷を舞台に、役所を主演に撮影した最新作で自ら脚本も担当した。製作は、22年5月に東京で開かれた会見で発表された。同監督は、世界的に活躍する16人の建築家やクリエーターがそれぞれの個性を発揮して、区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修する、渋谷で20年から行われているプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に新作を製作。そのため、11年ぶりに来日し、シナリオハンティングなどを行った。撮影は全て東京で行った。

田中は劇中で、役所が演じる東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山と奇妙なつながりを持つ、ホームレスを演じた。田中は「(役所とは)比べる必要がないくらい、俳優としてはひよっこで、まだまだ勉強中ですけど、私をダンサーとして呼んでくださった」とヴェンダース監督に感謝した。役どころについては「台本に『いる』としかかいてない。監督が『木の下に木漏れ日があるから踊ってください』と言うから『分かりました』と…即『はい本番となる』。その場で踊り…結構長く踊ったが、映画は数秒。少ししか使われてない」と笑った。

その上で、撮影について「(ヴェンダース監督が)『さぁ、踊って』と言われ、踊るのを何回もさせていただき…初めてかも知れない映画に参加する喜びは、僕の宝。役所さんとも、せりふのない交流をしたが、同じような感覚を持ったと思う」と、特別な体験だったと振り返った。