8月16、17日にNHK総合で放送されたNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」のドラマパートをベースに、約40分の追加シーンを加えた劇場版が、映画「開戦前夜」として公開が決定した。映画『開戦前夜』製作委員会(ポニーキャニオン/東京テアトル/NHKエンタープライズ/RIKIプロジェクト)が、25日までに声明を発表した。
「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」は、猪瀬直樹参院議員(79)が1983年(昭58)に出版したノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」が原案。出身官庁や企業から機密情報を集めて模擬内閣を作り、日本が米国と戦った場合のあらゆる可能性をシミュレートした、実在の総力戦研究所に着想を得たドラマ。石井裕也監督(42)が脚本・編集・演出を担当し、初めて戦争ドラマに挑戦。“圧倒的な敗北”の結論を手にした若者たちが、開戦へ突き進む軍や本物の内閣と対峙(たいじ)する物語。
製作委員会は「2025年8月に放送されたNHKスペシャル『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』のドラマパート(前後編計98分)は、実在した『総力戦研究所』と日米開戦への流れを描いた猪瀬直樹氏のノンフィクション『昭和16年夏の敗戦』を原案として創作されています。個々人の戦争への恐れや抗いを押し流して開戦へと向かった昭和16年夏の『世の中の空気』を、まさに今の時代に物語として描くことの重要性を感じ、制作いたしました」とドラマを制作した意図を説明。「そして、この作品のテーマをより深くお伝えするべく、約139分の完全版を映画『開戦前夜』として2026年以降に劇場公開予定です」と、公開時期を26年以降とした。
公開決定を発表した裏で、題材となった総力戦研究所の初代所長・飯村穣中将の孫で、元駐フランス大使の飯村豊さん(79)が24日、祖父の人物像が誤った描写で不当にゆがめられ、名誉を毀損(きそん)されたとして、NHKや番組制作会社などに550万円の賠償を求めて東京地裁に提訴した。「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」は、実在した総力戦研究所に着想を得てはいるが、國村隼(70)が演じた所長の板倉大道陸軍少将や関係者はフィクションとして描き、放送の際はテロップでその旨、明示している。それでも、飯村さんは「歴史の歪曲(わいきょく)で、平和を求めて闘う人たちへの侮辱だ」などとし、放送倫理・番組向上機構(BPO)にも審議入りなどを求める要望書を提出。BPOの放送倫理検証委員会は10月18日に「視聴者において誤解が生番組内でテロップでフィクションであることを明示するなどしており、視聴者に誤解が生じることはない」とし、討議入りしないとした議事概要を公表している。
製作委員会は声明の中で「本作ドラマの放送に際して、劇中に登場する『板倉大道少将』の描写が実在の人物と異なり、これが歴史の捏造(ねつぞう)・歪曲(わいきょく)にあたると一部からご指摘を頂戴いたしました」と飯村さんの主張について触れ「本作は歴史的事実を基にしたフィクションです」と主張。「表現にリアリティーを持たせるため、総力戦研究所での研究内容や開戦への流れは、複数の専門家による時代考証と数々の取材に基づいて検討を重ね、そこに創作を加えてテーマを伝える物語を紡ぎました。架空の名前の人物に特定のモデルはいません。『板倉大道少将』も実際には存在せず、架空の人物であることを放送時にはテロップ等により明示しました」と、の板倉大道陸軍少将は、あくまで架空の人物であることを強調した。
その上で「また、本作は原案著者・猪瀬直樹氏の承認も得て制作されています。本作を通じて歴史を歪曲(わいきょく)したり、特定の個人の名誉を毀損(きそん)する意図は一切ございません」と原作者の猪瀬氏も了承していることも強調。「ご指摘の内容については、誤解が生じることのないよう、テロップでの明示を含む複数の対応を検討しております。引き続き、さまざまなお考えや見解に真摯(しんし)に向き合いながら進めて参ります」と、映画でもドラマ同様、フィクションとして描いたことを明示するなどの対応を検討するとした。
劇中では、池松壮亮(35)が産業組合中央金庫(現・農林中金)の調査課長で、東大法学部を首席で卒業したエリートの宇治田洋一を演じた。真珠湾攻撃8カ月前の1941年(昭16)4月に日本中の若きエリートが秘密裏に集められ、対米戦をシミュレートするために作られた首相直属の「総力戦研究所」に突然、招集され、模擬内閣の内閣総理大臣を務めた役どころ。仲野太賀(32)が宇治田と同じ民間出身で、模擬内閣では「内閣書記官長兼情報局総裁」を担当した同盟通信社政治部記者の樺島茂雄を演じた。また、中村蒼(34)が、模擬内閣で「陸軍大臣」を担当する陸軍少佐の高城源一を演じた。
製作委員会は「昭和16年夏、総力戦研究所の研究生たちが首相官邸において総理大臣・閣僚・軍人の前で研究報告を行ったという史実があります。当時実在した研究所は、所長が自由闊達(かったつ)な議論を奨励する風通しの良い雰囲気であったと記録されており、研究生たちが日夜アメリカを中心とした諸国との戦争をシミュレーションして導き出した答えは『日本は必ず敗戦する』でした。この結果は報告会で発表されたものの、最後に報告内容と矛盾する所長の講評が行われ、研究生たちを憤慨させたとも記録されています」と、ドラマと映画の題材となった史実について説明。「さまざまな解釈が可能でもあるこの講評ですが、当初自由闊達(かったつ)な議論を奨励したにもかかわらず、なぜ最後にこのようなことになったのか? 私たちはここに着目しました」と指摘。「日米の国力差に大きな開きがあるという事実は当時の軍部でも認識されていましたが、この作品で描きたかったのは、それを誰もが責任を持って公の場で発言できなかった社会の『空気』で、これこそが作品テーマです」と、作品で描きたかったことを訴えた。



