藤本真澄賞の授賞式が先日、都内で行われた。映画製作者に贈られるこの賞は、前年の映画興行を端的に映し出している。
「爆弾」で奨励賞となった岡田将太プロデューサーは「カジュアルに言ってしまうと、ヤバい1年だった」と振り返った。25年の年間興行収入は2744億5200万円。前年比132・6%というだけでなく、コロナ禍前の最高記録2612億円を上回る歴代最高の数字だった。
「ヤバい」というのはそれだけの意味ではない。3時間越えの長尺、テーマは伝統芸能の歌舞伎と、ことごとくヒット作の条件から外れた「国宝」が邦画の実写記録を塗り替え、「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」は日本映画として初めて世界興収1000億円を越えた。
そんな常識破りの年度に「ただただ面白いものを」と念じて作ったのが「爆弾」だったという。
同じく奨励賞の「ファーストキス 1ST KISS」の山田兼司プロデューサーは「脚本の坂元裕二さんと『人生を変える映画を』と話し合い、強い思いで作りました」と言う。タイムリープを絡めながら夫婦愛という普遍のテーマを描いた内容は「半径5メートル以内を深掘りする」という従来の姿勢からの発想だという。
豪華客船の集団コロナ感染を題材にした「フロントライン」で特別賞となった増本淳プロデューサーは脚本も担当した。7年前にフジテレビを退社した増本氏は「社会派エンタメの企画は世の中的になかなか通してもらえない。福島原子力発電所の事故を題材にしたNetflixの『THE DAYS』の製作中に豪華客船の集団感染があって、これを次にと。コロナ禍ということもありましたが、脚本も自分で書きたかった」と振り返った。
各作品とも、ヒットを狙ったというよりは、リスクを取った製作者の強い思いが結果的に興行収入につながったことが分かる。
興収200億円越えで藤本真澄賞となった「国宝」も製作中は膨らむ費用に周囲は悲観する声の方が多かった。
村田千恵子プロデューサーは「監督の李相日さんの作品で最高の興収は『悪人』の19億8000万円でした。そこまで行っても赤字になってしまう、とか。いろいろ言われましたね」という。松橋真三プロデューサーも「正直、危険な企画だなという思いはありました」と明かす。
一方で、村田氏は「30億はいくだろうという不思議な自信がありました。私の母は80歳になるんですけど、その母があなたの映画の中で『国宝』が1番楽しみに思えるわ、と言ってくれたこともありましたね」と振り返った。
「ヤバい1年」の裏には厳しい状況にも折れなかった製作者たち強い意志があったことを改めて思った。



