0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左から2人目)
0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左から2人目)

サッカー選手になってからの方がビジネスマン時代より愚痴を聞く回数が増えた。

ビジネスマンよりも一瞬一瞬で思い通りにならない時が多いということと、毎日のように他者評価を受けることが理由だと思う。ただ、それと同時にサッカー選手の方が、その愚痴をそのままにせず、最終的には自分に矢印を向けて内省し、そこから反骨心や向上心に変える力は強いと感じている。

もちろん全員ではないが、一時の感情に流され続けない切り替えの早さがある。それは職業柄、数日後には試合という結果を求められる場が訪れるので、できるだけ早くその感情から抜け出さないと自分の居場所がなくなる可能性が高まることをわかっているからだろう。現に僕も感情的になることはあるし、愚痴が出そうな時もあるが、そんな時間より明日に備えた方が意味があることを知っている。

例えば、僕はここ数試合メンバーから外されることが多い。正直、悔しいし、なぜ? どうして? と思うこともある。しかし、メンバー発表が終わって、いつまでもそんな感情にさいなまれていたら、いつまでたってもメンバーインした選手を超えるアピールなどできるわけがない。

僕はメンバー外になったその瞬間に怒りを自分にぶつける。何を怠ったのかを徹底的に1時間考える。その後からはもう次の試合に思考を向ける。ここでダラダラと感情に流されていたら、時間を無駄に使うだけだ。

メンバー入りした選手は明日の試合に備えるが、僕は来週の試合に備える。1日でも1時間でも1分でも多く、次へと備えることをしなければ、いつまでたってもその状況は変わらない。もちろん簡単なことではないが、こういったことを含めて目指すべき道をクリアにしていくことが、人の評価で人生を歩かされるのではなく、自分の意志で人生を歩むことになるのだと考えている。

多くの人が愚痴を言う。決して愚痴を言うなと言っているわけではない。ただ、愚痴を言えば文句になり、それは批判へとつながる。その結果、ネットなどへの誹謗(ひぼう)中傷につながり、自分より不幸な人を見つけて、自分の幸せをキープする。

愚痴ではなく意見交換を。慰めや賛同を求めず、どうやったら現状を変えられるか。何をすれば目的に近づけるのか。そんな話をできる仲間を見つけることが大事だと思う。そこには感情的な好みではなく、意見交換に必要な人材として探すべきなんだ。

僕は良質な準備は行動した後じゃないと生まれないと思っている。本当に質の良い準備をするならば、何が悪くてなぜそうなったのかを分析しないと質は磨かれない。良質な準備とは、勝敗や成功、失敗といった表面的なものでは生まれない。勝とうが負けようが見逃してはならないポイントを感情移入なしに掘り下げる。成功や失敗も徹底的に掘り下げる。こういったことを繰り返していると、愚痴ではなく明確な意見として相手に伝えてみたくなるのだ。

愚痴を言ってストレスをため込まないようにするという人もいるが、愚痴を言うからストレスがたまるのではないか。ネガティブな言葉を吐いたところで、その言葉は全部自分の声で自分の脳にインプットされる。一瞬、発散はされるかもしれないが、結局またストレスはたまると思う。

愚痴を容認せず、意見に変える。そんな思考を回転させることができれば、良質なコミュニケーションと共にストレスフリーを実現し、目指したい目標に対して適切な意見交換が行われていく環境を作ることができるはずだ。

時は金なり、ではなく、時は人生だ。自分の言葉で自分の時間にストレスをかけるのをやめよう。これこそ誰かに頼ることなく自分が始めるべき大事なポジティブシンキングだと思う。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)


◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、グレミオ・マリンガとプロ契約も、けがで帰国。03年に引退も、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年に旧知のシュタルフ監督率いるYS横浜に移籍。開幕戦のガイナーレ鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。175センチ、74キロ。

0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左)
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