ベガルタ仙台は10日、渡辺晋監督(45)の来季続投を正式発表した。就任5年目のリーグ戦は11位に終わったが、前半戦は一時2位まで浮上し、後半戦も途中まで目標のトップ5を狙える位置で奮戦。9日の天皇杯決勝は浦和に0-1で敗れ準Vに泣いたが、クラブ初の決勝進出を果たした。クラブ記録に並ぶ6年目の長期政権を迎える渡辺監督が日刊スポーツに手記を寄せ、全日程を終えた今季を振り返った。

 ◇  ◇  ◇

今シーズンを振り返ると、苦しんだ時期が何度もあった。7月18日のホーム横浜戦は2-8で惨敗した。終盤も勝ち切れない試合が続き、難しい時間を過ごした。そんな状況下でも私の理想とするサッカーを支持してくれたフロント、それについてきてくれた選手、スタッフがいなかったら、天皇杯決勝という舞台には立てていなかったと思う。

今季目標はリーグ戦トップ5、カップ戦ファイナリストを明確に掲げ、スタートした。一部メディアの方から「プロビンチャ(地方の小規模クラブ)の身の丈に合っていない目標では?」と厳しい指摘もいただいたが、このチームなら本気で達成できると信じていた。

「強者を食ってやろう」と考えたときには、弱者なりの戦い方がある。「守ってカウンターでひと刺し」という考え方が、一般的だろう。世界的に見てもそのような戦い方はスタンダードであるし、実際に仙台も過去にそうやってリーグ戦2位に躍進し、ACLという大舞台に立った歴史がある。しかし、サッカーはプレーしている選手が楽しくなければいけない。その上で勝利をつかもうという形にする。それが私の哲学だ。

そう考えた時、今までのスタイルから脱却したい思いがあった。自分たちでボールを動かしながら、相手を動かしてゴールに迫っていく。究極の理想は90分間、相手陣のハーフコートでサッカーをやり続けることだ。試行錯誤はあったが、そこを目指すと決めてからは、1度もぶれなかった自負はある。しかし今シーズンに限って言えば、手応えはあまりない。だからここからを考えたとき、危機感しかない。でも、その危機感をエネルギーに変えて進んでいく覚悟が、今の私にはある。

クラブの規模を考えれば、日本代表クラスを何人も獲得することは難しいかもしれない。でも、他のチームで出番に恵まれずにくすぶってたり、ケガをして苦しんでいた選手が、仙台のサッカーに魅力を感じて集まってくれている。彼らの反骨心は大きなパワーだ。チーム得点王の西村(拓真=22)がシーズン途中でCSKAモスクワに移籍したが、不安に思ったことはなかった。むしろ、初の海外移籍でクラブの価値を上げてくれたと思っている。「再生」と「育成」。地方の小さなクラブだからこそできることもある。これまで勝てないときでも、熱く声援を送り続けてくれたサポーターのみんなには感謝の思いしかない。1年間共に戦ってくれて、本当にありがとうございました。そして、これからの仙台に期待して下さい。(ベガルタ仙台監督)