曹貴裁前監督のパワハラ騒動に揺れた湘南が、J2徳島とのJ1参入プレーオフ決定戦決定戦に引き分け、ヒヤヒヤながら残留を決めた。

8月に発覚したパワハラ騒動では、選手への「犯人捜し」などもありサッカーに集中できない環境に追い込まれた時期もあった。10月に新体制が発足すると、攻守でアグレッシブな湘南スタイルを取り戻し、J1の最後の椅子を死守した。クラブは浮嶋敏監督(52)の来季続投を発表した。

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J1残留を告げる試合終了のホイッスルが鳴ると、湘南イレブンはガッツポーズをしてピッチに倒れ込んだ。前半20分にセットプレーで先制されながらも、後半19分にMF松田の値千金弾で追いつき、J1に滑り込んだ。10月から指揮を執る浮嶋監督は「めちゃくちゃホッとしています。クラブの危機であるとともに、2年連続で残留したことはなかった。クラブにとっても大きな結果」と胸をなで下ろした。

今夏、クラブの顔だった曹貴裁前監督が、日本サッカー協会への匿名の通報によりパワハラ疑惑が発覚。8月11日の磐田戦を最後に指揮を自粛した。以降、高橋コーチが監督代行を務めたが、前監督を慕う選手やスタッフによる執拗(しつよう)な通報者捜しが始まり、ピッチ外の人間関係が崩壊していった。クラブも調査結果が出るまで身動きがとれず、約2カ月も足踏み状態に。勝利から遠ざかり、降格圏に突入した。ある選手は「全員、サッカーに集中できる状況じゃなかったし、それが結果にも出ていた」と吐露する。

10月3日にパワハラ認定の調査結果が出て、曹貴裁監督が退任。同19日の横浜戦から浮嶋監督が就任した。下部組織で指揮を執り「湘南スタイル」を熟知している新監督の就任で、ようやくサッカーに集中できる環境が整った。DF杉岡は「監督がしっかり道を示してくれた」。忘れかけていた攻守でアグレッシブな「湘南スタイル」が戻り、最後の最後で残留をつかみ取った。

クラブ幹部は「選手が一番、苦労したシーズンだった」と選手をねぎらった。湘南として初となる3年連続でのJ1が決まったが、東京五輪世代のDF杉岡、MF斎藤は他クラブが獲得へ向け動き始めている。同幹部は「こんな半年間を送って、結果を出した。オファーが来た場合、気持ちよく送り出したい」と選手の意向を尊重する姿勢を示している。試合後、浮嶋監督の続投が発表された。J1で戦う来季こそ、底力が問われることになる。【岩田千代巳】