新型コロナウイルスの感染拡大で2月下旬から公式戦を中断していたJリーグが29日、オンラインで臨時の実行委員会を開き、J1の再開日を7月4日に決めた。

6月27日にJ2は再開、J3は開幕となる。Jリーグの村井満チェアマン(60)は「国民の健康」を最優先に、日本スポーツ界でいち早く延期を決定していた。早期再開を目指しつつ、誰もが安心、安全な競技運営を全国各地の全56クラブと模索してきた。国難ともいえる緊急事態を乗り越えサッカーを日常に取り戻す日の設定に至った。

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夏の訪れとともに、Jリーグが日常に戻ってくる。まばゆい緑のピッチからフットボーラーの姿が消えたのは、まだ寒さの残る2月下旬だった。ゴール裏からの感情の制限を解除した人々の熱狂も、聞こえなくなった。だが、ウイルスの感染拡大を示す右肩上がりの曲線も山頂を下り、慎重さの中で少しずつ日常を取り戻してきた。再開日を検討しては延期を繰り返した日々とも、ようやく別れを告げた。

理念と現実、責任感のはざまでの苦闘があった。開幕直後の2月25日、スポーツ界で真っ先に「延期」を決めた。英断の下地にあったのは「国民の心身の健全な発達に寄与する」というJリーグの理念。その後、プロ野球、プロゴルフ…あらゆるスポーツの灯が消えた。未知なる外出自粛生活も、人々の心のもやを色濃くした。国民のためにも、スポーツ界で先陣をきっての再開を志し、リーグとクラブが意見をぶつけあった。

その都度、厳しい現実に直面した。56クラブが全国39の都道府県に散らばる。地域ごとで感染状況や日常生活は違う。全クラブの考えを集約して最大公約数を探すのは難解だった。プロ野球が開幕日を発表しても安全にサッカーを取り戻せる日を探求。29日の会議でリーグは足並みをそろえての6月27日再開を提案したが、緊急事態宣言が長引いた首都圏をはじめとするJ1の半数以上が発した反対の声にも耳を傾け、会議は3時間を超えた。産声を上げた93年は10チームだった“同志”が56まで増えたJリーグは誰一人の思いも軽んじることなくJ1とJ2、J3を分ける形で、解を見つけ出した。

新型コロナの出現前に戻すのではなく、共存しながら迎える「ニューノーマル」の日常に、サッカーを安全のもとに組み込んでいく。当面は無観客だが、政府の指針で客入れが可能となる7月10日以降からの無観客解除を検討。対戦カードも当面は移動リスクを考慮して「東西2ブロック」に分けて近隣同士で組む案を提案している。各クラブも徐々に全体練習を再開させ、来週には足並みがそろう。再開まで5週間。プレーヤーが360度自由に軌跡を描けるサッカーにおいて、戦術を浸透させる期間としては十分とはいえない。だが鍛錬の積み重ねで蓄積してきた技術や感性は全身に染みついているはずだ。感染予防策に取り組みながら、万全の備えを施す。

ピッチ外での準備も加速させる。ドイツ1部リーグなどの運営方法を参考にしながら移動や練習法、試合運営などのガイドライン作成に注力した。Jリーグ内に検査センターを設け、再開前から2週間ごとに全クラブで各40人をベースに審判100人を加えた計2340人に、唾液によるPCR検査などを実施する意向。手を緩めずに安全を追い求める。

5月15日、Jリーグは28年目を迎えた。その姿は、完全に元通りとはいかないだろう。財政面も含め、多くの課題と向き合う日々は続く。それでも全クラブが再び歩みはじめ、毎週水曜日と週末にサッカーが戻ってくることは大きな活力の源になる。20年夏。日本に、サッカーのある風景が戻ってくる。【浜本卓也】

◆中断によるJリーグ再開後のポイント◆

▽負傷の不安 16日に約2カ月ぶりに再開したドイツ1部リーグだが、その節で負傷者が相次いだ。Jリーグの中断期間は約4カ月。すでに全体練習を再開しているクラブもあれば、6月から再開予定のクラブがあるなど、調整段階に差が生じそう。戦術面だけでなく体力面でも不安はぬぐえないが、3人から5人に増える見込みの交代枠を有効活用するなど対策が必要になる。

▽疲労は 再開後は週2試合を年末まで戦うことが確実。感染拡大の予防対策も行いながらで目に見えない疲労も想定できる。真夏は猛暑、日本特有の蒸し暑さの中で過密日程をこなしていく。各クラブも若手の積極起用などターンオーバー制採用も考えられるが、戦力ダウンも懸念される。

▽感染者防止 当面は無観客で実施。入場者の制限をかけるなどして外部との接触を回避させる。再開当初は東西2ブロック制でのカード編成で長距離移動による感染リスクを削減する案を検討している。

▽戦い方は 開幕前に築きあげた戦術も、全体練習停止で成熟度が下がっていることも考えられる。外国人選手の処遇など、未知数な面もあり、夏場の猛暑や過密日程の疲労も重なり、大味な試合展開になってしまう可能性もある。

▽平等性は 今後、万が一、感染者が出たり、日本代表の招集などで主力が抜けることも想定できる。それらを鑑み、すでに「今季のJ1、J2で降格なし」「J1参入プレーオフは実施しない」「昇格はJ1、J2とも2クラブが自動昇格」「各カテゴリーの75%以上かつ各クラブが50%以上を消化すれば成立し、不成立の場合は昇格や順位決定、賞金、表彰は実施されない」と決めている。