日本代表が新たな歴史の扉を開いた。世界ランキング8位の日本が、同9位のスコットランドを28-21で下して、初の決勝トーナメント(T)進出を果たした。

無傷の4連勝で勝ち点19とし、1次リーグA組を1位通過。W杯9度目の出場で初めて8強入りを果たした。台風19号の影響で一時は試合開催が危ぶまれたが、15年大会で唯一敗れた相手に雪辱した。20日の準々決勝では、前回大会で金星を挙げた世界ランク5位の南アフリカ(B組2位)と、東京・味の素スタジアムで対戦する。

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5、4、3、2、1…。止めてくれ。守ってくれ。真っ赤に染まった超満員のスタジアムに、祈りを込めた6万7666人のカウントダウンがこだました。残り2分。7点のリードでのマイボール。襲いかかってくるスコットランドを桜の戦士が耐え抜いた。ボールを回し、FWが真っ向からぶつかる。SH田中が頭脳的に時間を使い、40分のホーンが鳴る。最後はFB山中がボールを蹴りだした。長かった。世界の壁にはね返され続けてきた日本が、ついに8強の壁を越えた。

死闘だった。前半6分に先制トライを許す苦しい立ち上がり。流れを変えたのは、快足WTBコンビだった。同17分に左タッチ際を福岡が2人をかわして抜けると、内側からサポートに入った松島が20メートルを走り切り、同点に追いつくトライ。後半開始直後には、再び福岡がみせた。中央で相手ボールを強引に奪い取ると、40メートルを独走。チーム4トライ目を奪い、「7点差以内の負け」でも突破が決まる状況を作り出した。

後半、2トライを返されると、最後は気合だった。「ふんばろう。我慢だ」。足をつったリーチ、福岡がタックルにいっては足を伸ばした。気力でリードを守り抜くと、ピッチの中央で屈強な男たちの歓喜の輪ができた。誇らしげに合流したジョセフ・ヘッドコーチは「特別な瞬間だ。選手全員が体を張り、いいゲームをしてくれた。素晴らしいコーチたちに教わったものを積み上げてきた。全員が日本人という気持ちで戦った」と力を込めた。

ジョセフ流の強気のラグビーが、日本を新たなステージに導いた。16年9月に指揮官に就任。15年W杯で歴史的3勝に導いたジョーンズ前HCの徹底した管理ラグビーから、選手に「自由」を与え、キックを多用する攻撃的なスタイルへかじを切った。こだわってきたのが「自分で考える」こと。コーチ陣にも、「Do Your Job(自分の仕事に徹しろ)」という言葉を伝え続けた。

サニックス時代からの盟友である藤井雄一郎強化委員長は「究極の場面で、自分で判断できる31人が兄弟のような絆で結びついたチームを目指してきた」と語る。理想を実現するため、特別扱いは一切なし。誤解を避けるため、選手とは一定の距離を取り、日本語でラグビーの話もしない。W杯でも、パフォーマンスが上がらない大黒柱リーチを先発から外し、「自分のプレーに集中しろ」と主将としてではなく、選手としての“仕事”に徹することで、復調をうながした。

負ければ終戦、勝てば夢の扉が開く-。究極の一戦でジョセフHCが育てた姫野、流らが躍動した。リーチ、堀江、稲垣ら日本代表を支えてきたベテランも力を出し切り、終了と同時に控え選手が一気にピッチに駆けだした。「ONE TEAM」。スローガン通りに育んできた絆こそが、桜のジャージーに宿る信条だ。【奥山将志】