21日のパラリンピック聖火リレーは東京都2日目を迎えた。千代田、台東、江東、墨田、江戸川の5区を走る予定だったランナーらが葛西臨海公園の駐車場に設けられたトーチキス会場に集合し、3人が1組になって聖火をつないだ。

千代田区でトーチを握るはずだった高橋勇市さん(56)は2004年アテネの男子マラソン(視覚障害T11)の金メダリストで、東京大会でもトライアスロンでの出場を目指していたが、世界ランクで1ケタ台に入れず13位だったため、応援にまわることになった。

「泳いだことがなくて水泳を始めたのは3年前。自転車とマラソンは自信があるから、泳力を伸ばせば勝負できる」と話し「もちろん、パリ出場を目指しますよ」と還暦直前となる59歳でのパリ出場に向けて意欲をみなぎらせた。

水泳のトレーニングをしたかったが、コロナ禍の影響でプールを使うことができず、5月に神奈川・江ノ島沖で実戦を想定して泳いだが思うように進めなかった。「なかなかうまくいかないね。でも、僕がね、そうやって頑張ることで、視力を失っても残った力でここまでできるということを見せられる」とにこやかに語った。

秋田県横手市の出身。1999年、34歳で完全に視力を失い、生きることに絶望した。だが、その年にマラソンに希望を見いだし本格的なトレーニングを開始した。

翌2000年のシドニーは骨折のため出場を断念。03年2月の勝田全国マラソン(茨城・ひたちなか市)で2時間45分23秒の日本新記録を達成し頭角を現した。アテネ開催の04年に国際盲人マラソンかすみがうら大会(4月・茨城)で当時の世界記録となる2時間37分43秒を樹立。同9月にはアテネでのマラソンで金メダルを獲得した。

高橋さんは「目が見えないから全身で感じながら周囲で何が起こっているかを把握する」と話し、50代でも現役にこだわる理由について「僕がチャレンジすることで障がい者の存在に気付いてもらえるかもしれない。誰もが気軽に声掛けができる世の中になるといいですね」と競技を続け、聖火リレーで火をつないだ意義を話した。【寺沢卓】