東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した。第32回夏季オリンピックは史上最多のメダル58個、第16回夏季パラリンピックはリオ大会の2倍以上となるメダル51個という結果になった。

この結果を見れば、エリートスポーツの成功と言えるかもしれない。しかし、スポーツにはメダルの数だけで測れない側面がある。

今回は特に無観客となったことで、ほとんどの人がテレビだけでなくさまざまなメディアを通して競技を観戦した。デジタル媒体が当たり前になった時代だからこそ、ジャーナリスト、アスリートが伝えてくれる情景を多くの人が受け取ることができた。ただ、それでも伝えきれない景色は多い。

たとえば今回で区切りの時期を迎えたアスリートやスタッフのこと。「東京大会だから続けよう」。そう思ってきたベテラン選手もいただろう。大会を終えて引退を決めた選手もいただろう。

メダルを最終目標にしていたが、取れなかった選手もいたはずだ。しかしその選手にとって、メダルがなければ「有終の美」にはならないのだろうか。「敗北」なのだろうか。

東京オリンピック・パラリンピックが終わった
東京オリンピック・パラリンピックが終わった

私はいつも、関わった選手たちには「最後の試合はどんな結果でも、ベストを尽くしたと思えることが大事」と伝えている。自分もそう感じている。

しかし「ベストを尽くした!」と思えることがいかに大変かとも思う。競技人生のこの瞬間にしかチャレンジできないこともあるだろう。年齢を重ねればピーキングも苦労する。経験はときに自分を慎重にさせたりする。

どんな結果にせよ、この大会限りで次のステージに向かうと決めているアスリートに伝えたい。ここで人生が終わったように感じるかもしれないが、そうじゃない。自分はこれからも存在し、自分なりのスタイルで輝けるということを。

参考になるかどうか分からないが、私の場合、現役時代に感じていた点と点がつながって、今は「線」になっている。選手として過ごしている生活の中に、自分が将来できることの要素が多かれ少なかれちりばめられている。そのときはわからなくても、時間と共に明確になるのだ。

よく「引退後2、3年は何をやっていたかわからなかった」という話も聞く。でも引退直後こそフレッシュで、さまざまな思考を巡らせるために重要な時期だと考えている。

私は、信頼できる方に相談した。信頼していないとケミストリーはうまれない。たとえばメンタルトレーナーとしてもお世話になった田中ウルヴェ京さん。また、アテネオリンピック落選の時から気にかけてくれている井本直歩子さん。彼女は私のセカンドキャリアに最も影響を与えてくれた方と言ってもいい。他にも本当にたくさんいる。大学院の仲間には、多くのこと学んだ。いつも悩んだら助言をくれる。

1人で考える時間も大事だし、人に話すことで考えが明確になることもある。自分の未来が不安じゃない人なんていないし、自信もなかなか持てないかもしれない。

しかし、一つだけは言える。アスリートとは、いい結果を出すために必死に時間を使い、自分なりのセオリーを作りあげて、自分を信じられた人たちだということ。

私は、より多くのアスリートに心から競技をやっていてよかったと思ってほしい。本当にアスリートのみなさんお疲れさまでした、そしてありがとうございましたと伝えたい。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)