消えぬ阪神との因縁…「永遠のライバル」掛布との不文律/追憶 江川卓~巨人編〈6〉
誰の目にも明らかな直球の球威。誰もが気になる「空白の一日」の心境と、入団後の人間関係…江川卓の神話性は巨人に入っても色あせず、一層、際立っていきます。身構えず遠慮せず、懐に飛び込んでいった1人の記者。何十年も関係を保って深め、軽妙なタッチで深層に潜っていきます。作新学院時代に続く「追憶 江川卓~巨人編」を、毎週水、土曜日に更新の全10回で送ります。(敬称略)
プロ野球
▼「追憶 江川卓~巨人編」連載一覧▼
食事代の勘定 浜松から東は江川、西は掛布
阪神OBには、江川にとって永遠のライバルで親友でもある人物と、生涯ある思いを償っていかなければいけないと決めた人物がいる。いったんは契約を交わし、巨人へのトレードが発表されるまでのほんの数分間「在籍」した阪神は、何かと因縁が深い。
「ミスタータイガース」。元阪神掛布雅之(67)とは同じ1955年生まれの同学年であり、「伝統の一戦」ではライバルとして数々の名勝負を演じてきた。毎オフには楽しく食事しながら野球談議に花を咲かせた。居住地は東京と大阪に離れており、ちょうど中間付近の浜松(静岡)より東で会うときは江川が、西なら掛布が、食事代の勘定をもつ約束になっていた。
江川VS掛布は、かつての長嶋VS村山、王VS江夏に並ぶ対決として、ファンの記憶に強く刻まれた。
掛布との対戦成績は167打数48安打、14本塁打、33打点、打率2割8分7厘。四死球18、三振21。なお14発は、広島山本浩二と最多タイ。奪三振21個は、トップ中日宇野勝の33個から数えて、10位タイほどの記録。つまり、打たれているが、抑えてもいる。
「ガチ対決」…2人にとってのバロメーター
2人の対峙(じ)が名勝負に昇華されていったのは、全打席「ガチ対決」だったからだ。
江川は言う。「自分にとってあいつ(掛布)が一番の“標準時”だったと思う。好不調に関係なく、あいつはインハイを打つのがうまい。それは、自分が投げるうえで“標準時”になるわけだよ。今日の自分の出来がどうかというのが、あいつにインハイを投げることでわかった」。
さらに続けた。「掛布の調子が悪くて三振を取っても、おもしろくない。スコアラーから『掛布は今、絶好調です』と報告があって、『いいじゃん。こっちも絶好調だ!』っていうときの勝負がおもしろいんだよ」。
相手の状態が、自らの調子の良しあしのバロメーターになる。それは、掛布にしても同じだった。江川のYouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」に出演したとき、掛布はこう言った。「実はですね、江川と対戦する時は、自分の調子が悪いほうが良かったんです。ストレートだけを待って、すべてを捨ててベストのスイングをするしかないから、すごくシンプルな考え方になれた。技術的にすごくレベルアップさせてもらった」。
79年7月7日後楽園、後悔の1球
対戦を続けるうち、お互いの中に、ある「不文律」が生まれた。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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