朗希へ演技派のススメ「審判を巻き込むような投手に」/追憶 江川卓~巨人編〈8〉
誰の目にも明らかな直球の球威。誰もが気になる「空白の一日」の心境と、入団後の人間関係…江川卓の神話性は巨人に入っても色あせず、一層、際立っていきます。身構えず遠慮せず、懐に飛び込んでいった1人の記者。何十年も関係を保って深め、軽妙なタッチで深層に潜っていきます。作新学院時代に続く「追憶 江川卓~巨人編」を、毎週水、土曜日に更新の全10回で送ります。(敬称略)
プロ野球
▼「追憶 江川卓~巨人編」連載一覧▼
「マウンドから降りてはいけない」
江川らしい、体験を踏まえた助言だった。
2022年(令4)4月24日のオリックス対ロッテ。ロッテ投手佐々木朗希(20)が、外角低めへの158キロストレートを「ボール」と判定され、少し不満げな表情を浮かべて数歩、捕手の方へ動いた。
これを、球審が野球規則の「抗議」の表明と判断。さらにマスクを取り佐々木に詰め寄った…。
◆公認野球規則8.02 審判員の裁定(a)打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチまたは控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。
【原注】ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり、監督またはコーチがベンチまたはコーチスボックスを離れることは許されない。もし宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる。
江川は自身のYou Tubeチャンネル「江川卓のたかされ」の中で、このシーンを分析している。
「佐々木投手が何か言ったのか、(不満げな)表情だったのかはわかりませんが、まず投手はマウンドから降りてはいけない。クレームと受け取られるから。それと審判には、ボール1個分くらいストライクゾーンが広い人、狭い人が必ずいる。審判も間違うことがあるし、マスク越しに『ごめん。次は(ストライクに)とるから』とか『意地でも変えない』とか表情で言ってくることもあるんです。今後、自分のストライクゾーンを有利にするためには、あそこの場面は、なごやかにいったほうがよかったかな、と思います。審判を(自分のほうへ)巻き込むようなピッチャーになっていただけるといいな、と思います」
そして、改まって「実は、私にも同じことがありました!」と告白し始めた。
82年(昭57)5月30日ヤクルト戦(後楽園)。4番大杉勝男への1球が、それだった。
3-2。巨人1点リードで迎えた9回表2死三塁で大杉を迎えた。この勝負で、江川は人生最大!? の「芝居」をうつのである。
自慢のストレートを2球うならせて、カウント0-2と追い込んだ。元来「1球外し」は性に合わない。3球目。当時の球速表示で150キロ、今なら約163キロの剛速球だ。決着はついた、と思われた。辛くも、大杉はこのボールをファウルにした。
そして、問題の4球目-。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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