王監督に引退を告げた直後 駐車場での屈託なき笑み/追憶 江川卓~巨人編〈最終回〉
誰の目にも明らかな直球の球威。誰もが気になる「空白の一日」の心境と、入団後の人間関係…江川卓の神話性は巨人に入っても色あせず、一層、際立っていきます。身構えず遠慮せず、懐に飛び込んでいった1人の記者。何十年も関係を保って深め、軽妙なタッチで深層に潜っていきます。作新学院時代に続く「追憶 江川卓~巨人編」を、毎週水、土曜日に更新の全10回で送ります。(敬称略)
プロ野球
▼「追憶 江川卓~巨人編」連載一覧▼
1987年11月8日朝5時 デスクから怒りの電話
午前5時、部屋の電話が鳴った。会社からだった。Tデスクの声は殺気を帯びていた。
「江川が引退らしい。×××(ライバル紙)に出てる。確認してくれ!!」
1987年(昭62)11月8日。当時巨人担当で江川の「番記者」だった私は居ても立ってもいられず、江川に電話をした。私の声は怒気を含んでいたと思う。
「やめない、と言ったじゃない! うそだったの?」
江川は言った。
「今は、何もしゃべれない…。ただ、俺はうそはついていないぞ」
その1週間前。「日本シリーズ」が、西武の4勝2敗で決着した。一敗地にまみれた巨人ナインは試合後、宿舎だった東京・立川市内のホテルをそそくさと後にしていた。
私は押っ取り刀で西武球場を後にし、宿舎で江川が引き揚げるのを待った。どうしても「単独で」聞いておきたいことがあった。幸い、他社の記者は誰もいなかった。
2時間ほどロビーで待っていると、江川がやっと姿をみせた。駐車場で単刀直入に聞いた。
「やめないよね?」
江川は屈託のない笑みを浮かべながら、答えた。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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