変化球に命名コシヒカリ、マスクメロン 松茸は…失敗/追憶 江川卓~巨人編〈5〉
誰の目にも明らかな直球の球威。誰もが気になる「空白の一日」の心境。入団後の人間関係…「昭和の怪物」江川卓の神話性は巨人に入っても色あせず、2つの時代をまたいで一層、際立っていきます。身構えず遠慮せず、懐に飛び込んでいった1人の記者。何十年も関係を保って深め、軽妙なタッチで深層に潜っていきます。作新学院時代に続く「追憶 江川卓~巨人編」を、毎週水、土曜日に更新の全10回で送ります。(敬称略)
プロ野球
▼「追憶 江川卓~巨人編」連載一覧▼
「ソフト」なハリ治療 「ハード」な変化球
私が「江川番」になりたての1985年(昭60)ごろ、江川の右肩は既に悲鳴を上げていた。
痛さが出始めたのは82年7月下旬。高校時代からの登板過多。さらに法大2年時のはく離骨折後アフターケアを続け、痛みは治まっていたのだが、それがまたぞろ出て来たようだった。
「スピードよりコントロール重視にいかざるを得なくなった。朝起きて痛みがないと、ホッとした。でも起きてみないと状態がわからない。あまりの痛さで、右肩を下にして寝たこともあった。右投げならありえないけど…」。しかめた顔に、調整の難しさが見てとれた。
入念なマッサージだけではなく、ハリ治療に取り組んでいた。中5日の登板を続けるうち、ハリを打つ間隔は徐々に短くなっていった。ハリ治療は後に広く知られることになるが、痛みを発症した頃はチームで信頼する1人のトレーナーにしか知らさず、外部に漏れないようにしていた。
肩対策の、それが「ソフト」なら「ハード」は変化球の習得だった。
持ち球はストレートとカーブだけと言われていたが、江川はきっぱり否定する。
「ストレートを1つにカウントするのは間違い。ストレートだけでも、インハイ、インロー、アウトハイ、アウトロー。それに、速い、遅いがある。手の内を明かすのがイヤだったから言わなかったけど、カーブも縦と横の2種類あった」
肩痛のためストレートの速度差がなくなった。「球種」が減る分、別の変化球でカバーしようとした。
「腰」がピカッと「光る」 打者の「マスク」を「メロメロ」
しかも、ユーモア感覚あふれる江川は、変化球の「ネーミング」を思いついた。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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