150秒にかける青春〈18〉〝負け〟から学んだこと…西日本代表涙の3位、19人の最後の演技

チアリーディング世界選手権大会(群馬・高崎アリーナ)で、選抜日本代表チーム・西日本は涙の3位に終わった。夏のジャパンカップで4連覇した箕面自由学園の高校生を中心に編成。世界一を目標に掲げながら前半のスタンツでミスが出た。“敗戦”を糧にして再出発する彼女たちの思いに迫った。(敬称略)

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〈チア世界選手権連載・完 西日本代表編〉

自由演技競技シニア女子部門は日本勢が表彰台を独占した。優勝は帝京大学、2位は東日本代表。西日本代表は惜しくも3位に終わった(撮影・河田真司)

自由演技競技シニア女子部門は日本勢が表彰台を独占した。優勝は帝京大学、2位は東日本代表。西日本代表は惜しくも3位に終わった(撮影・河田真司)

止まることのない涙

表彰式が終わり、会場からJR高崎駅へと続く道を並んで歩く。

すっかり日が沈んだ、暗い道だった。

対向車線を走る車のライトが彼女の頬を照らした。

ふと見ると、光るものがあった。

「結果はいいんですよ。

チアをやっていたら、こういう時もあるから。

優勝以外は一緒やし。

だから、もう、気にしていないです」

西日本代表チームを率いたコーチの井上綾香は、そう話していた。

それは本心ではなく、自分を納得させるために強がりな言葉を並べていることは、すぐに分かった。

車のライトなのか、月明かりなのか。光に照らされる度に、目頭が光っていたから。

本格的な冬の到来を感じさせる冷たい風が、吹いていた。

〝負け〟からはい上がろう!

大会が終わった5日後-。

その日は午前中に練習を終え、午後からは学期末テストに向けた自主学習の時間だった。

少しは気持ちが落ち着いただろうか。

みんなが机を並べて勉強をしているところを訪ねた。

11月から箕面自由学園高校の新主将になった高山智子に、勉強の合間に時間をもらった。

ホールの壇上へと架かる階段に座り、3位に終わった大会のことを聞くと突然、しくしくと泣き出した。

「悔しくて、悔しくて…。

今までこんなに悔しい体験をしたことがなくて…」

肩を震わせ、ずっと泣いていた。

12月に入り、2週間ぶりに会った井上もまた涙を流した。

そして、選手に復帰し、27歳で3度目の世界選手権に挑んだ井川恵莉奈に声をかけると、彼女も目を潤ませた。

この悔しさは消えることはない。

ただ、その「痛み」は、いつか、次へと成長する力に変わる時が来る。

今まで、ほとんど負けることを知らなかった彼女たちが、経験した苦しみ。

それを生かせるかどうかは、自分たち次第。

きっと、ドラマの主人公は負けからはい上がる。

この物語はまだドラマの始まり。

プロローグ-。

世界一を目指しながら3位に終わり、舞台裏の通路で涙を流しながら抱き合う主将の通山(左)と井川(関係者提供)

世界一を目指しながら3位に終わり、舞台裏の通路で涙を流しながら抱き合う主将の通山(左)と井川(関係者提供)

【シニア女子部門・上位成績】

1 大学代表・帝京大学(273・0点)

2 選抜日本代表・東日本(256・5点)

3 選抜日本代表・西日本(250・5点)

4 ドイツ(164・0点)

5 インドネシア(131・0点)

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編集委員

益子浩一Koichi Mashiko

Ibaraki

茨城県日立市生まれ。京都産業大から2000年大阪本社に入社。
3年間の整理部(内勤)生活を経て2003年にプロ野球阪神タイガース担当。記者1年目で星野阪神の18年ぶりリーグ制覇の現場に居合わせた。
2004年からサッカーとラグビーを担当。サッカーの日本代表担当として本田圭佑、香川真司、大久保嘉人らを長く追いかけ、W杯は2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、ラグビーW杯はカーワンジャパンの2011年ニュージーランド大会を現地で取材。2017年からゴルフ担当で渋野日向子、河本結と力(りき)の姉弟はアマチュアの頃から取材した。2019年末から報道部デスク。
大久保嘉人氏の自伝「情熱を貫く」(朝日新聞出版)を編集協力、著書に「伏見工業伝説」(文芸春秋)がある。