ヨーロッパでは欧州選手権(ユーロ)が1年遅れで開催されており、ファイナリストが出そろいました。同様に南米でも南米選手権(コパ・アメリカ)が開催されており、こちらも残すは決勝のみ。ユーロにおいては多くの観客が入り、マスクを着用している姿はほぼ見ないという違和感もありつつ、南米では全試合が無観客で進行しているようで、東京五輪も無観客開催ですし、ユーロの盛り上がりが羨ましくも感じます。

そのような中、長年レアル・マドリードを引っ張ってきたセルヒオ・ラモスが退団。パリサンジェルマン(PSG)への移籍が決定し、気がつけばPSGには4選手も元レアル・マドリードの選手(GKナバス、MFディ・マリア、インテルから加入したばかりのDFハキミ)が集結するなどファンは複雑な気持ちではないでしょうか。バルセロナでは人種差別発言を含む動画が選手の個人アカウントによって公開され、波紋を呼んでいます。当事者の選手が謝罪するも一部スポンサーが離れるなど、今後の動きに注目が集まる中、アルゼンチン代表のメッシの契約が期限であった6月30日までに更新発表されないという事も起こりました。つまり、現状は無所属という状態になるわけですが、この裏で一体何が起こっているのかを現地の報道をベースに覗いてみたいと思います。

事は、2013年までさかのぼります。現リーガ会長のテバス氏が会長に就任して最初に着手したのが、リーガの赤字体質からの脱却を目指した収支改革でした。内容としては主に、放映権分配制度の導入とサラリーキャップ制度の導入です。

放映権の分配制度により、レアル、バルサがリードしてきたリーガの放映権料をリーグが一度吸い上げて各チームに分配することでリーガ自体の競争力を高め、より魅力のあるリーグへと変貌させるという狙いでした。そしてサラリーキャップ制を敷くことで各クラブの赤字体質を根本から改善。借り入れや減価償却による赤字の累積を強制的に止めることで経営面をサポートしました(※この場合のサラリーキャップ制とは、トップチームの予算を年間収入から練習場&スタジアムの維持費、社会保障費といったスポーツ面以外の費用を差し引いた額に制限するというルール)。この制度が今回のメッシの契約更新に影響があると現地ではレポートされていました。今年3月に会長に返り咲いたジョアン・ラポルタ氏が、クラブの財政状況が想定を超える範囲で深刻であったとの見解をインタビューで発言しました。その負債総額が12億ユーロ(約1510億円)、短期負債が7億3000万ユーロ(約920億円)に上るということでした。同時に極度の財政難を引き起こしたのは選手たちの年俸があまりに高過ぎることだとも発言するなど、コロナによるマイナスという話が霞んでしまうほどの天文学的な数字が表面化したことで事態は急変しました。その中で、この原因の主な要因に選手の給与の高さとあり、まさにこの部分でメッシに注目が集まっている訳なのですが、2017年に延長した契約内容がリークされる結果となり、額の大きさには驚くばかりです。契約は大きく3種から組み立てられており、以下のように報じられていました。

1,年俸+インセンティブ:1億3800万ユーロ(約172億5000万ユーロ)

2,契約延長ボーナス: 1億1522万5000ユーロ(約144億円)

3,特別ボーナス: 7792万9955ユーロ(約97億円)

2017年から契約が終了する2021年までに選手が受け取る総額が5億5523万7619ユーロにもなり、日本円にして700億円を超える額になるとのことでした。この天文学的な金額は前任のバルトメウ氏らが選手の流出を避けるために設定したとも報道されており、裏では巨額の給与が支払われていたということになります。メッシの存在によって、クラブは多くの利益を得たことは確かでしょう。ただ選手1人の給与としては想像を超える契約内容であり、こういったことが人件費を増幅させていることにつながっています。今回契約延長がなされていない理由がサラリーキャップ制度との関係性が指摘されるのはこのあたりです。

この制度があることでクラブは、所属選手の年俸や契約年数によって減価償却されていく選手獲得時の移籍金を予算内に収める必要が出てくるわけで、つまり各クラブのトップチームの予算は、年間収入の60~70%程に抑えなくてはなりません。限度額を超過した場合には選手登録が認められなくなると言うことも明示されていることから、メッシの給与を大幅に下げない限り、これに収まらない事が考えられます。

各クラブに所属するスーパースターは、貢献度という部分が評されての高給取りになります。しかし、気がつけば財政面を圧迫する存在にもなりえます。試合はもちろん、それ以外の部分でもメッシの貢献度がいまだに大きいことは明らかです。バルサ以外のメッシには違和感さえ感じます。制度などの枠組みの中で、どこに落としどころを見つけるのか、それとも新天地を求めるのか、動向には注目です。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)