ゴールデンウィーク真っただ中の5月2~5日、東京・駒沢オリンピック公園で開催された東京国際ユース(U-14)サッカー大会が今年も大いに盛り上がった。中学2年生を対象とした国際大会だが、今回で10回目を数えるこの時期恒例のイベントである。

ボカ・ジュニアーズ戦に臨むFC東京のメンバー
ボカ・ジュニアーズ戦に臨むFC東京のメンバー

■11カ国20チーム参加

 パルメイラス(ブラジル)ボカ・ジュニアーズ(アルゼンチン)ベルリン(ドイツ)アンデルレヒト(ベルギー)チェルタノヴォ(ロシア)カイロ(エジプト)ジャカルタ(インドネシア)ニューサウスウェールズ(オーストラリア)三高FC(中国)ソウル(韓国)岩手県選抜、宮城県選抜、福島県選抜、茨城県選抜、Jリーグ選抜、東京都選抜、東京都中体連選抜、FC東京、東京ヴェルディ、FC町田ゼルビア(日本)の11カ国20チームが参加。1次ラウンド60試合、2次ラウンド20試合、4日間で合計80試合が行われた、まさに育成年代の見本市である。

 まず注目した一戦は最終日の5・6位決定戦、FC東京-ボカ・ジュニアーズだった。昨年の決勝と同一カード。前回はボカ・ジュニアーズがPK戦の末に勝利し、5度目の出場にして4度目の優勝に輝いた。FC東京としては、そのリベンジマッチでもあった。

 「14歳」といえども、ボカの選手はがっちりした大人さながらの厚みある体格。FC東京の選手より一回り大きく見える。だがFC東京も「むさし」「深川」の2チームから選抜したエリート集団である。試合が始まると、連動した一体感のある攻守で南米の名門クラブに対抗した。

 ボカのボールテクニックの高さは予想通りだった。それ以上に目を引いたのが闘争心だ。相手をはじき飛ばして激しくルーズボールを奪いにかかれば、ハイボールをキャッチしたGKにアフターで体をぶつけていく。主審の判定に不満をあらわにする選手、同時にベンチも一緒になって罵声を飛ばす。日本のチームにはまず見られない光景だ。育成年代とはいえ真剣勝負、まさに戦いの場である。

 1対1の局面ではかなわない、となれば。FC東京は相手のストロングポイントを理解した上で、その局面から2つ、3つ先の展開まで予測し、人とボールに食らい付く。日本人が武器と考える戦術理解度、組織力の高さを実証するものだった。スコアは動かず一進一退の攻防。そしてチャンスを待った。

 迎えた30分ハーフの後半30分、右サイド低い位置からゴール前左サイドの対角へ、大きく長いアーリークロスを入れた。すかさず走り込んだFW松本愛己が、スライディングしながら正確にボールをゴールへと流し込んだ。1-0。相手の圧力をいなし続けた小兵が、土俵際で見せた技ありの決勝点である。チーム一体となった会心の勝利で、FC東京は日本勢最高の5位で大会を終えた。

ボカ・ジュニアーズの選手と競り合うFC東京の選手
ボカ・ジュニアーズの選手と競り合うFC東京の選手

■求めるインテンシティ

 昨今の国内において、FC東京は育成年代をリードする立場にいる。ここではどういう指導がなされているのだろうか。試合後、佐藤由紀彦監督にボカ戦の振り返りとともに、指導について聞いた。

 -ボカは勝負へのこだわりが強いチームでした。真剣勝負の中で選手が成長している印象があります

 「僕がボカをリスペクトしているところはそういうところ。彼らは人生かかってプレーしている。ブエノスアイレスでは、いつクビと言われる可能性もあります。僕らは6・3・3という(学校)制度の中でプレーしている。どうしてもこの背景は動かせない中で、どう鼓舞していくのか? そういうところを常に考えながらやっています」

 -日本の教育システムでは(スポーツに)求められるものも違うし、難しい部分もあるのでは。そこで必要になってくることとは?

 「選手の自立と指導者の提示、この2つじゃないですか。ボカの選手が人生かけて飛び込んできてくれる中で、去年もそうですが、(うちの)選手たちがグッと伸びてくる。いくら練習でこういうテーマで、と落とし込んだことをするより、即効性はこのゲームですよね。また、今まで(向かって)行けてた子が(ボカ相手だと)行けなくなってくるし、逆にボカの子に行けたんだから、日本人に行けないのはおかしいでしょ、となる。(今後への)変化はすごく出てくると思います」

 -1次ラウンドではパルメイラス(0-3負け)ともやりました。この大会の面白さは?

 「東京都が招致してくれるお陰で僕らは飛行機にも乗らず、ここで試合ができる。その意義というものを体で、結果で、証明するのがFC東京の自負だと思っています。中には『この年代にそういうのを求めるのは』というのもあるかもしれないけど、僕にはそれがない。やっぱりボカの本気を引き出したい。じゃないと『いい試合だったね』が何十年も続いてしまう。去年も勝ちきりにいって負けたんですけど、今日も彼らの本気、生き様を何メートルかの距離で見て、(選手たちが)感じることは、僕らが100回言うよりも1発で分かると思います」

 -FC東京が指導の上で大事にしているポイントって何でしょうか?

 「例えば『鳥かご』という一つの練習がありますが、中の鳥が7割くらいの力がやっていては1000回ボールが回っても何になるの?って。中の鳥が本気でケズる(相手をファウルしてでも止めること)くらいでやらないと。今日のボカにしても、ケズリに来るのをかわせるかどうか。実戦に近いものを(練習から)こっちが持っていく。そういうインテンシティが強い。練習の強度がすごく高いし、意識的に高くもしている。僕は技術のある選手が闘えるようになるのが、一番美しい形だと思っています」

 インテンシティ。「プレーの強度、頻度」と訳される言葉だが、相手がボールを持った瞬間から、近い選手からどんどんハイプレスをかける。ドルトムントなどが実践した「ゲーゲンプレッシング」とも呼ばれる戦術で、欧州から広まり、現代サッカーでは勝負を分ける大事な部分と認識されている。大きな相手に怯むことなく、絶え間なく何とも勤勉に立ち向かったFC東京の選手たち。それゆえ佐藤監督の言葉は、腑に落ちるものだった。

決勝のパルメイラス-チェルタノヴォ戦の
決勝のパルメイラス-チェルタノヴォ戦の

■ハイレベルな決勝戦

 決勝戦はパルメイラス対チェルタノヴォ。ブラジルの名門は、やはりブラジルらしいチームであった。

 しなやかな身のこなしができる選手がそろい、ボールタッチの巧みさをベースに細かなパスワークを披露する。プレーメーカーとなったボランチの10番ルイス・ギレルメが積極的に前へドリブルでボールを運び、サイドの攻撃的MF、7番マルコス、11番カウアン・サントスが絡んでいく。崩れた陣形を見逃さず、前線の長身FW9番ウェンデゥへラストパスが出る。もはや14歳カテゴリーということさえ忘れ、その卓越した攻撃力には魅入ってしまった。

 対するモスクワからやってきたチェルタノヴォは大柄なディフェンダーをそろえ、自陣に引いて守ることを徹底した。大柄なGKマクシンは相手シュートをことごとくファインセーブし、試合を引き締める。そしてボールを奪えばスピードのある1トップの9番S・ピニャエフを活かしたカウンター攻撃を試み、時折パルメイラスのディフェンス陣を慌てさせた。まさに矛と盾の戦いであった。

 その結末は、シュート数ではパルメイラスの11対1という圧倒的な内容ながら、前後半60分はスコアレスで終了。続くPK戦、次々と相手シュートを止めたGKの活躍もあり、パルメイラスが王座を手にした。

 インターネットが存在しない昔、情報は人の行き来で伝わった。当然、情報が浸透するには長い時間を要した。だがインターネットの登場で世界はぐっと近くなった。かつては当たり前のように言われた「個人技の南米」「組織力の欧州」という表現を、もはや聞くことがない。その戦術自体に大きな差異はなくなった。相対性の要因が大きいため、相手によって攻撃的にも守備的にもなる。ただ、今回の国際大会を見ると、やはり国や地域性で指導者・選手のキャラクターや習慣は異なっている。となれば、指導する上での味付けやさじ加減も当然変わってくる。そんなことを考え、優勝したパルメイラスのホジェリオ監督に話を聞いた。

優勝したパルメイラスのメンバー
優勝したパルメイラスのメンバー

■才能を開花させる糧

 -今大会を振り返って、得られたものは?

 「日本に来る前から情報を得ていたので、驚くことはなかった。気候や習慣が違うが、しっかり準備をして、すべての問題を乗り越えてチームを勝たせることができた」

 -FC東京とも戦いましたが、日本のチームにはどういう印象を持ちましたか?

 「スケジュール的にすべてのチームを見ることはできなかったが、FC東京にはいい印象を持ちました。できる限りパスをしながら、多くの選手が絡んで工夫して戦っていました。ただテクニックがあるだけでなく、どう生かしていくのか、彼らの考え方が感じられて(試合をして)楽しかった。今すぐに結果が出るものではないが、先につながるようなプレーをしていた。点数を取りたいならゴール前へロングパスを出すのだが、そうはしなかった」

 -ではパルメイラスはどういう選手を育てようとしているのですか?

 「まずはそれぞれの選手の才能をキープしながら、それを最近のサッカーの世界で何が求められているのか、合せていきます。創造力を生かしながら。また、チームを通してどういうビジョンを描くかも大事です。チームとしての一体感を持たせ、それぞれの才能をさらに開花させたい」

 -例えば11番の選手は小柄(身長150センチ台ほど)ですが、いい選手でした

 「彼はとても賢く、いい選手です。背が小さく、体が大きくなることは期待できない。だが違った部分で才能を引き出したい。11番だけでなく、みな同じように修正できるように我々は考えている。サッカーのプロになるのはとてもつらい道なので、それを乗り越えられるようにしたい」

 -指導する上で最も大事なポイントとは何ですか?

 「まずは私自身が信用してもらうよう、いつも努力している。そしてテクニックの部分はもちろん大事だ。あとは人間としてどう成長させていくのか、そこがポイントになってくるだろう」

 最後に出た「人間としてどう成長させるのか」という言葉。いみじくも、FC東京の佐藤監督が口にした「選手の自立」に通じる部分だと思う。指導者は常に選手に問いかけ、その提示によって個々を育てていく。育成という作業は、その繰り返しである。

 「14歳」という少年から大人への変化を迎えるタイミングで、選手各々がつかんだであろう刺激。そんな刺激は間違いなく、未来への糧となる。

【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)

フェアプレー賞を受けたFC東京
フェアプレー賞を受けたFC東京