スペイン1部エイバルに所属する日本代表FW乾貴士(29)の取材は、いつも和やかな雰囲気だ。7月10日、関西空港で行った出国前の取材。乾が「オフはリラックスできたし、トレーニングもしっかりできたので、あとはまた新シーズンに向けて…」と意気込みを語ろうとした直後だった。「乾様、乾貴士様…」と館内放送が…。

 「やばい! 俺や! 呼ばれてる!」

 乾は「ちょっと待っててください」と囲んでいる取材陣に一声掛けて、駆け足で搭乗手続きをするカウンターに向かった。残された私たちは「よく気付いたね」「すごいタイミング」と笑いに包まれていた。戻ってきた乾に呼び出された理由を聞くと、搭乗手続きを済ませた際にビザの確認をしていなかったという。苦笑した乾の「もう大丈夫です」という一言で再び取材が始まった。当初よりリラックスした雰囲気で「目標は楽しく自由にやること。日本代表の前に、まずはチームでポジションを奪わないといけない」と意気込みを語ってくれた。

 5月21日、バルセロナから日本人初ゴール、それも2得点を決めた乾は同24日に帰国した。到着した関西空港で反響を尋ねられると「皆さんが来ていることがそう(反響)なんじゃないですかね。こんな来てもらったこと今まではなかった」と笑いを誘った。この日の乾は関西空港から古巣のセレッソ大阪の練習場へ直行。ランニングやシュート練習などを行った。

 練習後の乾に、なぜ休みを取らないのか尋ねた。「これが自分のリラックス方法。休みたいという気持ちはあまりない。もうちょっと歳を取ってからかな。今はできる限り、体を動かしたい。オフでもボールを触るか、筋トレとかして体を動かして、休める日をできるだけ作りたくない。休むことが大事という人もいるし、自分に合ったやり方がある。自分自身で見つけていくしかない」。無理しているわけではない。自分に合うやり方を求めた結果が、休まないという方法だっただけだ。

 滋賀・野洲高時代は練習が休みだった元日も、1人で自主練習していたという話もある。「(元日の練習)したかも。高校のときから休んだ記憶がない。休んでも1日。2日(連続で)休むことはないです」と充実した表情で振り返った。

 C大阪の練習にも自然に溶け込み、ファンサービスにも取材にも肩肘張らずに応えてくれる。いつも飾らず、自然体。そんな乾を見ていると「何かしてくれるんじゃないか」とワクワクしてくる。「サッカーを楽しみたい」。スペインでも日本代表でも変わらぬ姿勢を貫く乾が、サッカーを観戦する方まで楽しませてくれるはずだ。【中島万季】


 ◆中島万季(なかしま・まき)1988(昭63)年8月11日、鹿児島県薩摩川内市生まれ。高校野球やアメリカンフットボール、高校ラグビーなどを経験し、4月からサッカー担当。