ロシアW杯まであと約3週間となった。

 出場各国は23人の登録メンバーを続々と発表し、ズラリと並ぶ一流プレーヤーの名前に、感嘆の声すら出そうになる。世界中が熱狂する祭典が、すぐそこに迫っている。

 注目は、90年イタリアW杯以来、7大会ぶりにW杯に出場するエジプト。今季、リバプールでプレミアリーグ得点王に輝くなど大ブレークを果たしたFWモハメド・サラー(25)を中心に、アルゼンチン人のクペル監督のもとで急成長を遂げているチームだ。先日、今大会のヒーロー候補でもあるサラーの取材で同国を取材し、さらに目の離せないチームであることを再確認させられた。

 エジプト代表は、サラーだけのチームではない。現地の記者や住民に話を聞くと、皆が口をそろえるようにそう言った。もちろんサラーは偉大な選手で、エジプト国内でも大人気。後にも先にも、世界でも屈指のレベルを誇るイングランドのプレミアリーグで得点王に輝くエジプト人プレーヤーなどそうそう現れない。誰もがそんなことを理解した上で、そう語るのである。

 エジプトは長くW杯からは遠ざかってはいたものの、06年から2年に1度のアフリカ選手権を3連覇するなど、決して代表チームが低迷しているわけではなかった。しかし、今のチームとの決定的な差は、海外組の数だという。エジプト最大の新聞社、アフラーム紙でエジプト代表を日々取材するアフマド・イサム氏は「10年までは、エジプト代表は海外組が1人だけといったようなチームだった。でも、今は多くの選手が海外へと渡り、移籍金を国内クラブに落としていく。そのお金で潤ったクラブは、新たな選手を獲得できる。そういったいい循環が生まれ、代表チームの強化にもつながった」と話す。

 確かに、サラーの後半ロスタイムの劇的なPKでW杯出場を決めたW杯アフリカ最終予選のコンゴ共和国戦のメンバーをみると、先発メンバーの約半数が海外組。サラーのいるプレミアリーグの名門アーセナルに所属するDFエルネニーらもいるが、現地の記者らが隠れた代表の中心選手に挙げるのは、トルコリーグのカスムパシャに所属するMFトレゼゲや、成長著しい21歳のFWソブヒ(ストーク)の名前だった。イサム氏は「サラーだけに気を取られていると、痛い目にあうだろう」と自信に満ちた表情で話した。

 エジプト代表の注目ポイントは、それだけではない。GKには今年1月15日で45歳の誕生日を迎え、本大会で出場すればW杯最年長出場記録を更新するエルハダリもいる。日本人には記憶に新しいかもしれないが、現在同記録を保持しているのは、14年ブラジルW杯日本対コロンビア戦で、途中出場で同記録を更新した元コロンビア代表GKファリド・モンドラゴン氏だ。エルハダリはエジプトの正GKでキャプテン。その経験値とキャプテンシーはクペル監督にも高く評価されており、モンドラゴン氏の記録した43歳3日の記録を、更新する可能性は高い。

 イサム氏によると、エジプト代表は3月の親善試合の時点ではメンバーもほぼ固定し、仕上げの段階に入っているという。「すでにチームの形はできあがっている。クペルを中心に、ここからどうピークに持っていくか。グループリーグのA組は簡単ではない組み合わせだけど、ベスト16には入れると信じているよ」。

 そんな会話をカイロで交わす少し前に、日本代表ではハリルホジッチ監督が解任されたというニュースが届いていた。こちら日本代表は、ここから西野新監督を迎え、新たなチームを立ち上げた。そんなことはあえてこちらからは言わなかったが、ハリルホジッチ氏は14年ブラジルW杯でアフリカのアルジェリアを率いてベスト16に導いた名将。同じアフリカのエジプトメディアが、日本代表でのドタバタ解任騒動を知らないわけがなかった。アフラーム紙の女性記者タハニ・サーリム氏には「監督が解任されたんでしょう? 何があったの? 今からだと準備期間が短すぎるでしょう」とやや苦笑い気味に問われてしまった。

 サッカー選手なら誰もが憧れるW杯。同じ出場国だとくくることは簡単だが、そこへ至る道は各国さまざまだ。本大会で、それぞれの国がどんな結末を迎えているのか。やってみないとわからないこともある。日本代表の躍進を、心から願っている。


 ◆松尾幸之介(まつお・こうのすけ) 1992年(平4)5月14日、大分県大分市生まれ。中学、高校はサッカー部。中学時は陸上部の活動も行い、全国都道府県対抗男子駅伝競走大会やジュニアオリンピックなどに出場。趣味は温泉めぐり。