サッカーにおける「魔の2-0」というワードを耳にしたのが昨年8月、セレッソ大阪が清水エスパルスに壮絶な逆転負けを食らった試合後だった。アウェーのセレッソ大阪が立ち上がりから攻め、前半33分の時点で2-0とリードした。しかし、そこから流れが急変しあっという間の3失点で逆転負け。試合後の緊急ミーティングで、尹晶煥監督が最大級の怒りを爆発させたことで有名? な試合だ。

「魔の2-0」で「ああ、あの試合」と思い出す方は多いはず。今年のワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝トーナメント1回戦。日本がベルギーを相手に壮絶に散った試合もそうだった。原口が先制し、後半7分に乾のスーパーゴールで追加点をあげ、初の8強が現実に見えた直後だった。ベルギーのド迫力の猛攻を浴び、後半ロスタイムに決勝点を奪われ、日本の夢ははかなく消えた。

試合を支配しているように映る2-0のスコア。それが時間帯によって「魔の2-0」に変貌する。元祖“ミスターセレッソ”の森島寛晃・強化部長に聞いた。「“魔の2-0”確かに言いますよね。早い時間帯にこのスコアになると、そこから攻めるのか、守るのか、難しい判断が求められる。その中で1点失えば、一気に流れは相手に向く。“魔”ですよ」。

気候条件、ピッチの状態によるスタミナの消耗や選手に負傷者など、さまざまな要因の重なりはあるだろう。確実に言えることはダメージの大きさ。昨季のC大阪でいえば、清水戦以降の5試合を1勝1分け3敗と失速し、優勝争いから引き離された。今季のJリーグでも、ガンバ大阪が8月5日の名古屋グランパス戦で2-0からFWジョーの3発で逆転負け。そして残留争いから抜け出せず、苦しんでいる。

「魔の2-0」は教訓でもあるのだろう。つかんだ勝機は絶対に手放してはいけない。有利に運ぶ試合の中でも、心に隙が生じてしまってはやられる。ベルギーにやられた日本も「まだまだだよ」とはねつけられた感じだった。2-0をしっかり勝ちきる。そのために何をすべきか、何が必要なのか。常に考え、実行するためにも「魔の2-0」は意味のある言葉かもしれない。

◆実藤健一(さねふじ・けんいち) 1968年(昭43)3月6日、長崎市生まれ。若貴ブームの相撲、ボクシングでは辰吉、徳山、亀田3兄弟らを担当し、星野阪神でも03年優勝を担当。その後いろいろをへて昨春からスポーツ記者復帰。いきなりC大阪が2冠と自称「もってる男」。