U-20アジア杯(ウズベキスタン、1~18日)に出場するU-20日本代表DF諏訪間幸成(19=筑波大)は、全日本プロレスの「暴走専務」諏訪魔(46)を父に持つ。

フィールドは違えど父のように。どんな敵にも強気に戦いを挑む19歳に意気込みを聞いた。3日に中国との初戦を迎える愛息へのエールを聞こうと“悪役レスラー”にもインタビューを打診。ところが…。当日、会場に現れたのは、笑顔がすてきな諏訪間幸平専務。父は息子へ「五輪」の夢を見ている。【取材・構成=栗田尚樹、磯綾乃】

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身構えた。インタビューの相手は、あの最凶ヒール軍団「ブードゥー・マーダーズ」の1人。プロレスラー諏訪魔だ。粗相しては、命はない。周囲に武器を探したが、椅子ぐらいしか見当たらない。刻々と時間が迫るにつれ、嫌な汗がじわりと滴った。しばらくして、扉が開くと、そこに立っていたのは優しい笑顔の男性。諏訪魔ではなかった。諏訪間専務は、少し恥ずかしそうに話し始めた。

「不思議なものだよね。俺も全日本守れ、とやっていた時期があって、息子もそういう守るポジション、DFやるってさ」。

子どもの成長を振り返る優しい顔は、プロレスラーという肩書を忘れさせる。

「幸成はファイターなの? 何か、よく強靱(きょうじん)な体とか言われているけど何で? そんな体強くねーだろって。まぁ、俺基準になってるけど(笑い)。強いサッカー選手になってほしいね。俺みたいな体で走れる、そういう選手になってほしいよ。『あれ、プロレスラーじゃね?』って言われるくらいにさ」。

諏訪間専務のような身長188センチ、体重120キロのサッカー選手がいたら、見てみたい。

「対人? へ~幸成、相手に強いの? でも、この間の休みの時に、息子と向き合って、ガバって捕まえて倒してやったよ。俺には一生勝てない。技? それは横四方固めよ。息子は『やめて~』『ぎゃーっ』って、うるせーんだよ。子どもに3カウント取られたら、俺はもう人生終わりますよ。引退させられてたまるかよって」。

いつの日か、自身を超える強さを手にして欲しい、と願っているようにも見える。

言い続けてきた言葉は「外で遊べ」「メシ食え」「忍耐」。

「とにかく、やりたいこと、やれよって言ってきた。あと俺は、忍耐って言葉は大事にしてる。つらい思いばかりしてるから。レスリングもそうでしたし。耐えれば、続ければいいことあるだろって。そういうことは言い続けてきたな」

あと少しで五輪選手だった。かつてレスリングの重量級で、国内のトップを走っていた。だが、米・ニューヨークで行われた03年世界選手権で敗れ、その後に重量級の出場枠がなくなったこともあり、04年アテネ五輪出場は夢に散った。

「現実的に五輪が見えてきたところだったのでね。これ勝てばオリンピック選手というところでね…。だから息子には、五輪に行ってもらいたい。個人的にね。オリンピアンって響きはね、そこには、一線ありますからね」

その時、足りなかったモノは「経験」だという。だからこそ、若くして、世代別のサッカー日本代表として戦う愛息には、今回のアジアカップを含め、さらなる経験値を積んでほしいと願う。

「俺は遅咲きだったので。もっと早く、そういう舞台を何回も経験して、最終的に五輪予選に挑んでたら違ったかもしれない。ただ、幸成は今、本当にいい経験をさせてもらっている。先々、勝負かけられるようになってもらいたいね。貴重な経験をしてると思う」。

どんな大人になって欲しいか?

「一般常識ある、まともな人になって欲しい。俺みたいに、ならないほうがいいんじゃないかなって思うけどね(笑い)」

そう言いながら、インタビューの最後まで、渡した名刺を握りしめる諏訪間専務だった。

◆諏訪魔(すわま)本名・諏訪間幸平。1976年(昭51)11月23日、神奈川県藤沢市生まれ。レスリングの03年全日本選抜フリー120キロ級を制し、世界選手権代表。04年全日本入団。同年10月馳浩戦でデビュー。06年にヒールターンし、リングネームを諏訪魔に改名。21年3月から同団体の専務執行役員。主なタイトルは三冠ヘビー、世界タッグ。188センチ、120キロ。

◆諏訪間幸成(すわま・こうせい)2003年(平15)6月6日生まれ、神奈川県出身。横浜ジュニアユースから横浜ユースに進み、昨年から筑波大サッカー部に所属。開幕戦でデビューしフル出場を果たした。U-15、16、17と各年代の日本代表に選出。昨年11月にスペイン遠征を行ったU-19日本代表にも選ばれた。183センチ、76キロ。

 

◆U-20アジア杯 2年おきに行われてきたが、20年はコロナ禍により中止。今大会からU-20W杯と同年開催となり、上位4カ国に今年5月にインドネシアで開幕するW杯の出場権が与えられる。インドネシアが4強に入った場合は、準々決勝敗退チームでプレーオフを実施予定。日本は16年以来2度目の優勝を目指す。1次リーグD組で中国、キルギス、サウジアラビアと対戦。2位までに入れば準々決勝に進み、4強入りでW杯行きが決まる。キャプテンはMF松木。