高知西が初めて立った全国の舞台。初勝利には結びつかなかったが、得られた経験は次の人生への糧と捉えた。高知西のFW大平智也(3年)は「できたこともあった。これも捉え方次第で変わってくる」。この日の敗戦も、良い方へと受け止めた。夏の留学で学んだ1つの“切り替え方”だった。

 3年に進んだ春、学校にあったチラシに目がとまり、文部科学省が留学を推進する「トビタテ! 留学JAPAN」に応募した。全国から約2000人が名乗りを上げて、各国に留学できるのは約500人。ただ、さまざまな分野に分かれていて、スポーツ・芸術では約80人だけしかいない。その狭き門に挑み、書類審査と面接審査では「スペインのサッカーを学んで、チームに還元したい」ということを情熱的に訴えて、通った。サッカーでの留学者は、ただ1人だった。

 8月13日から約1カ月間、マドリードに渡った。紹介されて通ったチームで、スペイン人に交じってサッカーをする。そこで目の当たりにしたのは、彼らの自分勝手なプレーだった。

 ここで、黙っていたら、留学で得られた収穫はあまりなかっただろう。だが、スペイン語は分からずとも、言わずにはいられない性分だった。「簡単な英語と、身ぶり手ぶりで言いました。『なんで、そんな勝手なプレーをするんだ』って。たぶん、下手だと思っている日本人に言われたから、頭に来たんでしょう。チームを追放されてしまいました」。

 奨学金を用いて行っている留学先で、チームから追放される-。これはこれで、なかなかできない経験。「さすがに1日、落ち込みました。でも、切り替えた。次のチームは、もっとうまいチームかもしれない。もっとコミュニケーションが取れるかもしれない、って」。前向きな気持ちが引き寄せたのか、次に紹介されたチームは実力もより高く、やる気に満ちていた。大平も、目いっぱい吸収した。

 約1カ月間のスペイン留学。学んだことはたくさんあった。「1番は、自分の気持ちを主張し、表現すること。スペイン人は衝突を恐れず、試合中でも言い合って、乱闘になることもあった。味方を尊重しつつも、自己主張をする。それでいて次の日には何もわだかまりがない。切り替えも早い。見習わないといけないなと思いました」。

 次は大学でサッカーをする。サッカーからの引退を迎えたとき、次はサッカービジネスの道に進みたいと考えている。「大学でも留学したい。海外に行って、日本の良さを伝えていくことも大事だと思うんです」。負けは悔しい。でも、人生はまだ終わりではない。さまざまな経験を身に着けて、次へと進んでいく。