川崎フロンターレが史上5チーム目の連覇を達成した。セレッソ大阪に試合終了間際の失点で敗れたが、2位サンフレッチェ広島も敗れたため、2試合を残し、史上2番目の速さで優勝が決まった。リーグ最少の26失点、リーグ2位の53得点。攻守ががっちりかみ合った「うまさに強さ」が加わったチームが「常勝軍団」への道を歩み始めた。

敗戦を告げる笛の音から数十秒後、ベンチから2位広島敗戦の知らせが届いた。クラブ一筋16年、38歳のMF中村はかしわ手を1度打って、拳を握った。三分咲きの笑みが満開になったのは優勝セレモニーだった。シャーレ(優勝皿)を掲げて連覇の重みを堪能した。

「勝って当たり前と思われながらやる苦しさは感じましたが、それをはねのけてやってきたのは、自分たちの力を評価していい。今季1年の自分たちの取り組みの結果が出たのでほっとしています」

今季は、例年にない対策を練られた。5バックでゴール前を固める相手には大苦戦。パスサッカーを封じるため、芝を長くし水をまかない敵地も多かった。3月末から4戦未勝利、5月には首位広島と勝ち点13差に開いた。それでも戦い方はぶれなかった。「奪われたら速いプレスで取り返す。攻撃するための守備。ボールを握り倒して攻める」。

中村はチームの先頭で守備のスイッチを入れる。「自分のやるべきことは攻撃以上にそこ」。技術にたけたMF家長、阿部、FW小林も守備でハードワークを続け、サボれば試合に出られない環境がある。常勝軍団の鹿島出身の鬼木監督が「うまいだけじゃ勝てない」と植え付けた「戦う姿勢」が浸透した結果だ。

中村は、日々のパス練習から「どうやったら取られないか」「どこにボールを止めて置くか」と1本ずつ質を突き詰める。「こなしてる人が増えていたらチームの水準も上がっていかない」。この姿勢が練習の質を引き上げ、主力もサブも、居残りでコーチと高速パスをトラップしてのターンなど技術練習を怠らない。

また、MF大島や大卒新人MF守田らに、自身が10年以上かけて得た戦術眼や技術を出し惜しみなく伝え、成長を後押ししてきた。中村は言う。「自分たちがやるべきことをやれば、違う次元にいけるサッカーになると思っている。それを目指せる環境に今、フロンターレがあって、連覇できたのはグラウンドはうそをつかないということ」。

14年のワールドカップ・ブラジル大会で落選の挫折や川崎Fで7度の「シルバー」を経験したベテランは36歳で史上最年長MVP、37歳で初優勝、38歳で連覇…。「自分がもういいか、と思えばそこで終わる。また、来年、3連覇したいモチベーションが増えた」と新しい欲が湧いている。「無冠ターレ」とやゆされたチームが常勝軍団の階段を上り「後輩たちにこれをフロンターレの日常にする役目は自分にはある。幸せな38歳。こんな幸せな38歳はいないと思います」。ベテランの「サッカーがうまくなりたい」という欲が、黄金期をつくろうとしている。【岩田千代巳】