やっと、ホームで笑みがはじけた。松本山雅FCが最終節で徳島ヴォルティスに0-0で引き分け。逆転優勝の可能性があった大分トリニータ、FC町田ゼルビアも引き分けたため、松本のJ2初優勝と4年ぶりのJ1昇格を決めた。J2に1年で戻った16年以降、いずれも最後にホームで悔し涙を流してシーズンを終えてきた。今季22度目の無失点試合を演じて、2年分の思いをようやくうれし涙に変えた。

笛が鳴った。ベンチから一斉に人が飛び出す。詳細が分からない松本の選手に、徐々に伝わり始めた歓喜。その1分後だった。会場に他会場の結果が表示されたのは。地鳴りのような歓声が湧き起こる。4年ぶりのJ1昇格。それをJ2初優勝で決めた。しかも、悲劇を繰り返してきたホームで。DF田中は真っ先にサポーターの元へ向かった。

「(降格後)2年間昇格できなくて、まずみんなの喜んだ顔を見たいと思った。気づいたらサポーターの方に向かっていました」。今季最多1万9066人。緑一色に染めたみんなと、喜びを分かち合った。

ホームを悲しみに染めた2年間だった。1年でのJ1復帰を目指した16年は4カ月間も2位にいながら、最終節を前に3位転落。引き分けでも決勝に進むプレーオフはホームで岡山の後半ロスタイム弾に屈した。昨季も、勝てば6位以内のプレーオフに回れる最終節のホームで京都に敗れた。

今年も出だしは最悪だった。持ち味の「堅守」以上に多彩な攻撃を掲げて臨んだが、開幕6試合で4分け2敗。20位に沈んだ。唯一、1勝すらできなかった。主将のDF橋内は「もしかしたら序盤であきらめた人もいるでしょ」とサポーターに聞いたほどだった。

そこで初心に帰った。約束事はやはり「守備」。第7節で、昇格のライバルに置く大宮に勝つと風向きが変わった。得点こそ「54」と少ないが、無失点試合は「22」。42試合で34失点しかしなかった。「前線の選手は本来やりたいことがあると思うが、歯を食いしばって(守備を)やってくれる。それが後ろの選手が我慢できる要因」と橋内。固い信頼関係。チャンスを逃し続けても踏ん張れたこの日はまさに象徴的だった。

J1に戻る。もう「上位」を目標とする選手はいない。厳しさは覚悟の上。田中は「やらないといけない思いの方が、J2優勝やJ1昇格の喜びよりも勝っている」。スローガンは「登頂」。J2の頂を登り詰めた。次はさらに高く険しい。だが、歩みは止まらない。【今村健人】