清水エスパルスが、執念のドローでホーム最終戦を締めくくった。ヴィッセル神戸に3-3。1点追う後半ロスタイム14分、GK六反勇治(31)が、J1史上初のGKによるPK以外のゴールを決め、勝ち点1を手にした。前日23日午後11時3分、副社長兼ゼネラルマネジャー(GM)の久米一正さん(享年63)が大腸がんのため死去。日本サッカー、清水の発展に尽力した故人をしのび、全員がファイトしてつかんだ奇跡の同点劇だった。

久米さん、清水はたくましくなっています-。このメッセージを故人に届けるべく、選手たちが執念を見せた。勝利以上に価値のあるドロー。満員のスタンドから拍手が湧き起こり、セレモニーでは、左伴繁雄社長(63)が思いを込めて言った。「久米さんも、天国で見ていてくれたと思います」。

突然の訃報は、この日の朝に知らされた。スタッフ、選手たちがすぐに思いを1つにした。「勝利を届けよう」。劣勢が続いてもあきらめず、後半42分、FWドウグラス(30)のヘッドで1点差。ロスタイムに入り、MF河井陽介(29)DF立田悠悟(20)が、負傷退場して騒然とする中、奇跡が起きた。同ロスタイム14分、左CKから、GK六反がヘディングで鮮やかに合わせた。J1のGKでは1996年(平8)以来22年ぶり、PKを除くと初、さらに史上最遅の一撃で試合を振り出しに戻した。

試合後、六反は人目をはばからず泣き、「久米さんと(引退する)兵(働)さんが決めさせてくれました」と言った。他の選手も久米さんへの感謝を口にした。清水の再建を託され、昨年12月、11年ぶりに清水に戻ってきた久米さんは、就任会見で「このチームはトップ5を狙える。そのためにホームの勝率を上げる」と宣言した。公約は実現した。昨季はアイスタで3勝2分け12敗だったが、今季は7勝4分け6敗。13年以来5年ぶりの勝ち越しだ。「日本平で勝って、ニコニコして帰っていただけるようなチームにしたい」。故人の思いは、感謝の横断幕を掲げたサポーターにもしっかりと伝わっていた。

今後も語り継がれるであろう一戦。六反の同点弾をアシストしたMF石毛秀樹(24)は「久米さんの気持ちが乗り移ったと思う」、ドウグラスも「この経験は必ずエスパルスを強くする」と言った。今季残り1試合で7位。5位東京との勝ち点差は2で、最終節はアウェー長崎戦だ。目標達成へ。選手たちは再び久米さんとともに戦う。【神谷亮磨】

◆久米一正(くめ・かずまさ)1955年(昭30)7月26日、浜松市生まれ。浜名から中大に進み、78年、日立製作所に入社。左利きのMFで日本リーグ132試合出場11得点。ワールドカップ・ロシア大会で日本代表を率いた西野朗氏はチームメート。85年に引退。91年に日本協会に出向し、Jリーグ創設に尽力。94~02年に柏、03~07年に清水、08~15年に名古屋で強化を担当。昨年12月、清水に復帰した。