スペイン1部リーグは今季、3カ月間中断される特異なシーズンとなったが、最終的にレアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリードの3強がいつも通り上位を占める結果となった。

そんな中、2部から今季昇格したグラナダとオサスナが、現地で「サプライズを起こしたチーム」として注目された。この2クラブのすごさは、スペイン20クラブの中でも特にサラリーキャップ(選手の減価償却費及び選手年俸)が低いにもかかわらず、自分たちの目標以上の結果を残したことである。

サラリーキャップが全てを物語るわけではないが、基本的には戦力や結果に大きく反映していると言っていいだろう。今季のサラリーキャップ上位5クラブは以下の通り。バレンシアが大きくつまずいた以外、ほぼ金額通りの順当な結果となった。

※( )は今季順位

1位 バルセロナ(2位):6億7143万ユーロ(約805億7160万円)

2位 Rマドリード(1位):6億4105万ユーロ(約769億2600万円)

3位 Aマドリード(3位):3億4850万ユーロ(約418億2000万円)

4位 セビリア(4位):1億8517万ユーロ(約222億2040万円)

5位 バレンシア(9位):1億7067万ユーロ(約204億8040万円)

これに対し下位5クラブのサラリーキャップは以下の通り。乾貴士のエイバル、久保建英がプレーしたマジョルカがともにサラリーキャップに見合う順位に終わった一方、上位と下位の差が6億ユーロ(約720億円)以上も離れた厳しいリーグの中、グラナダとオサスナが予想以上の結果を残したことが顕著になっている。

16位 エイバル(14位):4712万ユーロ(約56億5440万円)

17位 オサスナ(10位):3869万ユーロ(約46億4280万円)

18位 グラナダ(7位):3546万ユーロ(約42億5520万円)

19位 バリャドリード(13位):3290万ユーロ(約39億4800万円)

20位 マジョルカ(19位):2997万ユーロ(約35億9640万円)

また、マジョルカ同様、2部に降格したレガネスのサラリーキャップは14位の5208万ユーロ(約62億4960万円)、エスパニョールは10位の6847万ユーロ(約82億1640万円)だったにもかかわらず、リーグ戦の最終順位はそれぞれ18位と20位と残念な結果に終わっている。

サラリーキャップが下から3番目のグラナダを率いたのは、1部リーグ初挑戦のディエゴ・マルティネス監督。今季、勝ち点56で7位となり、クラブ史上初となる欧州リーグ出場権を手にする偉業を成し遂げた。グラナダはスペイン1部リーグ史上、1部昇格直後のシーズンに欧州カップ戦出場権内入りを成し遂げた10番目のクラブとなったのである。またシーズン途中に並み居る強豪を抑え、リーグ首位に立つという快挙も達成したことは「グラナダの奇跡」と呼ばれた。

ディエゴ・マルティネス監督は、2部時代の昨季からグラナダを率いて公式戦87試合を戦っているが、「先制点後に逆転負けを喫したことが一度もない」という絶対的な強さをチームにもたらせた。通算38試合で先制し、その成績は32勝6分け0敗の勝率84%。また1部を戦った今季もその面の強さは変わらず、14試合で相手よりも先にゴールを決め、結果は12勝2分け0敗、勝率86%と圧倒的だった。これは先制点後、試合をコントロールする能力にディエゴ・マルティネス監督がたけていることを証明するものとなっている。

今季最終節ではビルバオ相手に4-0の圧勝を飾り、1部初挑戦を最高の形で終えたディエゴ・マルティネス監督は「このチームが成し遂げたことは、歴史的かつ唯一無二なものだ」とチームの偉業を褒めたたえ、自分たちのやったことに大きな自信をうかがわせた。

もうひとつのサプライズチーム、ジャゴバ・アラサテ監督指揮下のオサスナは、グラナダ同様に2部からの昇格組で、サラリーキャップも下から4番目と、残留が難しいチームのひとつとみられていた。しかも今年1月にチームのナンバーワン選手、FWチミー・アビラを左足前十字靱帯(じんたい)断裂の今季絶望の大ケガで失うという不運にも見舞われた。

エースを欠いたオサスナではあったが、アラサテ監督がチームに高い組織力をもたらし、全員が力を合わせて最後まで戦い抜いた結果、チミー・アビラを擁した時の勝ち点数が24だったのに対し、欠場後の勝ち点数が28と上回った。最終的に17選手が得点を記録してチーム全体でエース不在の穴をカバーし、勝ち点52を獲得して、リーグ戦再開後に掲げたトップ10入りという目標を見事達成したのである。

また、オサスナは第37節で、Rマドリードの優勝を阻止するため絶対に勝利が必要だったバルセロナ相手に枠内シュートで上回り、2-1と勝利。カンプ・ノウで613日ぶりの土をつけている。オサスナがアウェーでバルセロナに勝利するのは実に11年ぶりのこととなった。

アラサテ監督はマジョルカとの最終節後、今季について「素晴らしいシーズンだった。我々が目標としていたトップ10で終えられたことに価値を与えなければいけない」と満足げに振り返った。オサスナは来季、10月にクラブ100周年を迎え、現在改修中の新スタジムの「こけら落とし」を控え上昇ムードにある。

グラナダとオサスナは現在、日本代表MF久保建英の獲得に乗りだし、その有力候補に挙がるなど来季に向けて動きだしている。さらなる飛躍を目指す“サプライズチーム”の野心は尽きることがない。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)