6月14日にスコアレスドローで欧州選手権をスタートしたスペイン代表だが、初戦直前に監督解任した2018年のワールドカップ(W杯)ロシア大会同様、ルイス・エンリケ監督がメンバー発表した5月27日からスウェーデン戦に至るまでの約3週間でさまざまな問題が勃発した。

ルーズボールを奪い合う場面で倒されるスペインのロドリ(AP)
ルーズボールを奪い合う場面で倒されるスペインのロドリ(AP)

■Rマドリードから選出なし

新型コロナウイルスの感染が懸念された今大会は、登録人数が23人から26人に増員されたが、ルイス・エンリケ監督はメンバー発表時の記者会見で「我々は24人で臨むことにした。過去の大会で常に18~19選手を起用してきたから、皆がチャンスを得られるように、多くの選手を連れていくことを望んでいない」と24人で十分であることを強調したが、この判断が後に物議を醸すことになる。

さらに「1月からベストコンディションでプレーできていなかった」からという理由で、世界の歴代最多キャップ数ランキング2位で、チームキャプテンであったセルヒオラモスが外れたこと、そしてスペイン代表のメジャー大会史上初めて、レアル・マドリードからひとりも選ばれなかったことも大きな話題となった。

今回はこれまでの大会と異なり、Rマドリードとバルセロナのスペイン2大クラブに偏ることなく、総勢17クラブから選出された。マンチェスター・シティーが最も多く4人。続いてバルセロナから3人、アトレチコ・マドリード、ビリャレアルから2人が選ばれた。

一方、18年のW杯では2大クラブから10人(Rマドリード6人、バルセロナ4人)、16年の欧州選手権では9人(Rマドリード4人、バルセロナ5人)が選出され、メンバーの半数近くを占めていた。

■代表出場数10回以下が10人

今回選ばれたメンバーの中、メジャータイトル獲得選手はセルヒオ・ブスケツとジョルディ・アルバの2人のみ。メジャー大会初参加が17人、代表キャップ数10回以下が10人と大きく世代交代している。「どんなチームにも勝てる可能性がある一方、どのチームにも負ける可能性のある未知数のチーム」とスペインメディアに形容され、フレッシュさが期待される一方、経験不足を指摘されていた。

そんな中、ブスケツとディエゴ・ジョレンテ(※ディエゴ・ジョレンテはその後、偽陽性と判明)が立て続けに新型コロナウイルス検査で陽性反応を示したため、開幕まで約1週間に迫る中、全体練習ができない期間があった。さらにルイス・エンリケ監督は感染者が増えることを懸念し、選手変更も視野に入れ、総勢17選手を追加招集して練習参加させた。また、登録メンバーを24人にしたことが裏目に出てしまい、欧州サッカー連盟(UEFA)の規定で26人に増やすことができなかった。

さらに8日に予定していた欧州選手権に向けた最後のテストマッチであるリトアニア戦を辞退せざるを得ず(※代わりにU-21スペイン代表が対戦したが、A代表戦にカウント)、ポルトガルとの1試合のみで本番に臨むことになってしまった。

しかし、問題はそれで終わらず、新型コロナウイルスのワクチン接種も大きな議論となった。スペインではこの時、40歳以上の人たちの接種がスタートしたばかりで、対象外だった選手たちのワクチン接種を優先するかが話し合われ、最終的にスペイン政府からスウェーデン戦の4日前に許可が下りた。副反応が懸念されたが、「安全性が完全に保証された状態で戦えるようにするため」という理由でワクチン接種を決断したのである。

無得点に渋い表情のモラタ(AP)
無得点に渋い表情のモラタ(AP)

■初戦で露呈した決定力不足

このようにさまざまな問題を抱えたスペイン代表はキャプテンのブスケツを欠く中、14日にスペイン南部セビリアで、欧州選手権1次リーグ初戦スウェーデン戦に臨むことになった。先発メンバーで代表キャップ数50回以上の選手はジョルディ・アルバとコケのみで、10回以下のウナイ・シモン、マルコス・ジョレンテ、パウ・トーレス、ペドリなどが名を連ねた。

不安混じりの中でスタートしたスペインだったが、試合前日にルイス・エンリケ監督が「攻撃面ではできるだけ多くのチャンスを生み出して相手を支配し、守備面では前線からプレスをかけ、ボールを奪う必要がある」と語ったように、キックオフから監督が求めた素晴らしいサッカーを展開する。前半は特にボール支配率が83%に達し、近年稀に見るワンサイドゲームとなり、経験不足は杞憂(きゆう)に思われた。

しかし、スペインはまたもや長らく抱え続けている“決定力不足”という問題を露呈した。センターFWを務めたアルバロ・モラタが決定機を外してホームのサポーターからブーイングを受けると、途中出場のジェラール・モレノも試合終了間際のチャンスをものにできず、スコアレスドローで終了した。

スペインとスウェーデンの最終的な試合データは、ボール支配率75%-25%、シュート数17本-4本、枠内シュート数5本-0本、パス本数954本-176本、パス成功数852本-103本、パス成功率89%-59%。数字だけ見れば圧倒的に上回っており、勝利に値した完璧なゲームだったように見える。しかしゲームを支配するも点が取れないという、スペインにとって“ありきたりの内容”だったのは間違いないだろう。

スペインの直近10試合の成績(※U-21スペイン代表が対戦したリトアニア戦を除く)は4勝5分け1敗。欧州ネーションズリーグでドイツ相手に6-0の大勝を飾ったことは非常にポジティブな結果だが、それ以外で2ゴール以上決めたのはジョージア戦とコソボ戦のみ。無得点が3試合あり、多くの試合で決定力不足に苦しんでいた。

■スペイン紙「得点なき包囲」

スウェーデン戦翌日、スペイン紙アスは1面の見出しに「得点なき包囲」とつけ、スペインが徐々に調子を落とし、モラタがスタンドからブーイングを受けたことや、ジェラール・モレノの投入が遅かったことなどを指摘した。一方、スペイン紙マルカは一面で「ゴール以外は全てが良かった」とタイトルをつけ、「スペインが攻撃を組み立て、ゲームをコントロールし支配したが、ゴールを決められなかった」と内容の良さを評価しつつもゴールが遠かったことを強調している。

スペインはこの後、19日にポーランド、23日にスロバキアと対戦し1次リーグを終了するが、長らく続く決定力不足を解消しないことには、2大会ぶり、史上最多4回目の欧州選手権優勝を達成できない。世代交代した新チームがその点を、試合を積み重ねどのように修正していくかに注目したい。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)