イングランドの1部リーグが、プレミアリーグとして独立して四半世紀以上。国内トップの世界では、その勢力図からサッカーのスタイルまで様々な変化を見た。プレミアのオーナー像もその1つ。独立1年目の1992-93年シーズンには、英国人の牙城だったオーナー界だが、今季の20チームに純然たる英国人所有クラブが占める割合は25%に過ぎない。

かつてのオーナーと言えば、サポーターとして育った地元の富豪が主流。彼らにとって、クラブは「浪漫」の対象だった。それが、今日のオーナーに多い外国人大富豪にすれば「投資」の対象だ。海外に住み続けるオーナーは当たり前。アーセナルのアメリカ人実業家スタン・クロエンケなどは、今年2月のリーグカップ戦の決勝にすら姿を見せなかった。

チームを預かる監督陣の中には、口は出さずに金を出すオーナーが理想という意見の持ち主もいるかもしれない。だが、イングランドのシーンは、サッカー自体のファンよりも、特定クラブのサポーターとしての意識が強い庶民に支えられている。人々が情熱を傾け続ける集団の「大親分」には、「私の出資先」としての興味ではなく、「我がクラブ」としての誇りと愛情を持っていてもらいたい。「チームの12人目」が名前しか知らない、あるいは、写真でしか顔を見たことのないオーナーなど、以前は考えられなかった。

10月27日にレスターで起こったヘリコプター墜落事故による、タイ人オーナーの死がクラブの垣根を越えて人々の心に痛切に響いた背景には、故ウィチャイ・スリヴァッダナプラバ氏が、新手の外国人オーナーの1人でありながら、旧来の英国人オーナーとの共通項を持つ存在だったこともあったに違いない。ホームゲームでは、ビールからドーナッツまで、そしてマフラーなども、サポーターに無料で配ったことのある同氏だが、チームの調子が良くても悪くても、リーグ戦でもカップ戦でも、極力スタジアムに足を運んで支援を惜しまなかった情熱こそが、「同志」として敬愛された最大の理由だろう。選手との距離が近いオーナーは他にもいる。しかし、11月4日付のサンデー・タイムズ紙で、レスター現役最古参のアンディ・キングが語っていたように、「友人を失った気持ち」と言われるオーナーは、国籍を問わず、昨今のプレミアでは極めて稀だ。

そのオーナーとしてのあり方は、奇跡の15-16年シーズンのリーグ優勝と同様、故人がプレミアに残した遺産。後を絶たないであろう新オーナー勢に受け継がれることを願う。悲劇の犠牲者全5名のご冥福と、レスターの更なる一致団結を祈りつつ。(山中忍通信員)

◆山中忍(やまなか・しのぶ)1966年(昭41)生まれ。静岡県出身。青学大卒。94年渡欧。第2の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を時には自らの言葉で、時には訳文としてつづる。英国スポーツ記者協会及びフットボールライター協会会員。著書に「勝ち続ける男モウリーニョ」(カンゼン)、訳書に「夢と失望のスリー・ライオンズ」(ソル・メディア)など。