日本人初のファイナリストへの道筋は確かに見えていた。男子110メートル障害日本記録保持者の高山峻野(25=ゼンリン)は絶好の飛び出しを見せた。しかし、13秒58(追い風0・6メートル)の6着で準決勝敗退。中盤でハードルを倒さなければ、決勝進出の可能性は十分にあった。

後半に力を発揮する高山が、4台目まで体1つ抜けていた。しかし、さらにスピードが上がった5台目。「踏み切りが近くなってしまった」と抜き足をハードルに当てた。バランスを崩し、6台目は完全に倒した。「終わったな」。2着以内を狙えるスピードで疾走していた勢いを失った。日本勢が過去、五輪で3度、世界選手権で6度はね返されてきた準決勝。10度目の挑戦も壁に阻まれた。

「焦ってしまいました。脚をさばき切れなかった。練習不足だと思います」と振り返った。ただ、悔やむ姿はない。「準決勝に行けたから満足。準決勝を走る前も失敗しても、準決勝まで行ったからいいと気楽な気持ちで行っていたので」。予選を全体5番目の好タイムとなる13秒32で通過しても、無欲のままだった。「緊張することもなかった」と語った。

世界との差は「すごくあると感じる」と言う。来年の東京五輪も「まず出ること」と謙虚に語る。世界選手権の経験は糧にする。「大舞台でスピード感が出せたことは、自分にとって大きい。それを体に記憶させることが最優先。13秒3台を連発して、来年に向けて弾みを付けたい」。出国前はネガティブな発言を連発していた男が、はっきりと前を見据えた。