復活ではない。進化して生まれ変わった。ケンブリッジ飛鳥(27=ナイキ)が日本歴代7位タイとなる10秒03(追い風1・0メートル)を出して優勝した。追い風0・9メートルの条件だった予選3組では10秒05の1着。ともに桐生祥秀(24=日本生命)に先着した。これまでの自己ベストは17年の10秒08だった。16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)男子400メートルリレー銀メダルのアンカーは不振が続いていたが、変革が実を結び、強くなって帰ってきた。

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万感の思いでかみしめた。予選の10秒05に続き、3年ぶりの自己記録は堂々の10秒03。桐生、小池の9秒台のライバルを蹴散らし、勝者の特権とばかりに、背中からトラックに大の字に倒れ込んだ。夜空を見上げながら、約2700人の拍手と視線を独り占めした。「苦しい期間が続いていた。うれしい。記録を残せず、大きな大会でも結果が残せなかった。ここまで帰ってこられた」。久々の勝利の余韻を存分に楽しんだ。

レースは号砲に低く出ると、中盤から滑らかに加速。桐生に並ぶと、勢いは落ちない。最後に伸びると、前に相手はいなかった。

これまでの自己記録は10秒08。一気にタイムが上がった要因は、信念を捨てたこと。14年に父の母国ジャマイカに渡り、体の大きい海外選手から「細っちいな」と言われた。その経験もあり、世界で戦うため、ウエート重視するスタイルを構築。無名の男は、半年で体重を5キロ上げるなど筋骨隆々となり、16年リオデジャネイロ五輪代表などトップスプリンターに進化した。ただ、その成功体験は成長の妨げにもなった。

筋力偏重は、体のバランスの崩壊を招いた。片足で「立つ座る」の動作も安定しない。故障も続き、昨季の最高は10秒20。昔は「9秒80」を掲げていたが、いつしか強気は消え、目標を問われれば「10秒0台」と言っていた。変わったのは冬季からフィギュアスケート高橋大輔の元専属トレーナー渡部文緒氏の指導を受けてから。パワーの追求から方針を転換。片足スクワットなどに取り組み、連動性やバランスを求めた。五輪前のスタイル変更はリスクもあるが、今は力強さとバランスの相乗効果がある。過去の自分を捨て、過去の自分より速くなった。

今は発する言葉も頼もしい。「自信をもって9秒台が見えてきた。コンスタントにいい記録で走っていけば狙っていける」。伸び悩んだ2年間の鬱憤(うっぷん)は、これから晴らしていく。【上田悠太】