高橋尚子(31=スカイネットアジア航空)が、まさかの惨敗を喫した。30キロ地点手前で失速し、39キロ付近で優勝したアレム(28=エチオピア)に抜かれ2位に落ちた。2時間27分21秒と記録も平凡、マラソン連勝記録は6でストップし「Qちゃん神話」は崩壊した。アテネ五輪出場権獲得が難しい結果にも、レース後の高橋は他の選考レース出場に消極的。五輪連覇どころか、出場も大ピンチになった。

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悲しいほどあっけなく抜かれた。悲劇は、39キロ付近で起きた。あの高橋がアレムの背中を見送った。「やっぱりなという気持ちでした。28キロ付近で足が棒になって、これは抜かれると思いました。35キロから先、長かったです」。前半は風のように下っていった坂を、帰りはまるでスローモーションのように上った。20分17秒。35キロから40キロまでの5キロに要した、高橋の信じられないラップだ。

トボトボと歩くようにゴールした。スパートの合図に投げるはずのサングラスは顔を覆ったまま。国立競技場が声を失った。「こんなに応援してくれたのにすみません」。笑顔が悲しかった。序盤、トラックで早くも先頭に立ち、折り返し地点ではかったようにギアを上げ、アレムを引き離した。高橋はやっぱり強い。そう思った直後、アテネは遠のいていった。

小出代表は「昨日会ったとき、顔が白かった」と言った。原因は貧血だ。前日夕方、パンを2袋ほど買っただけで部屋に入った。この朝の食事はモチを少し、口にしただけだった。「もっと食べろよ」。小出監督はのみ込んでしまった言葉を仕切りに悔やむ。レース後の高橋は弁当を2箱、一気にほおばった。これでは力が出ないはずだった。

6月から約4カ月半、米国ボルダーで絞り込んだ。体重43キロ。だが、自己ベストより2キロ軽い肉体は、スタミナも失っていた。アシックスの職人・三村氏につくってもらった今大会用の靴のサイズが合わなかったのは、肉体をそぎすぎたから。小さくなった足が波乱の予兆だった。

衝撃は続いた。レース後、高橋から「再挑戦」の言葉は出てこなかった。ゴールしたとき、真っ先に聞いた。「五輪に行くにはもう1度、走らないとダメですかね」。小出代表は「当たり前だろ。27分台で2位じゃ…」と答えた。それでも高橋は「今は(選考レースを)走ることを考えられません。走る姿が想像できない」。周囲は来年3月14日の名古屋国際出場の可能性を示唆したが、本人は消極的だ。

誰もが東京では高橋がアテネ五輪キップをつかむと考えていた。陸上関係者はそろって女子マラソン代表枠は「実質残り1」と話したものだ。しかし、2時間27分21秒の現実。このまま大阪、名古屋の選考レースを走らなくても選考対象にはなるが「高橋枠」が残る可能性は少ない。「人生の区切り」とまでいったアテネへの思い。高橋はこのまま五輪をあきらめてしまうのだろうか。悲しいほど、あっけなく。【牧野真治】