マラソンの女王・高橋尚子(31=スカイネットアジア航空)のアテネが、史上初の五輪連覇が消えた。日本陸上競技連盟は15日、東京都内で理事会、評議員会を開き、野口みずき(グローバリー)、土佐礼子(三井住友海上)、坂本直子(天満屋)の3選手がアテネ五輪女子マラソン代表に決定したことを発表した。シドニー五輪金メダル、日本最高記録の実績を持つ高橋は、昨年11月の選考レース、東京国際で2時間27分21秒の2位に終わったことが響き落選。午後6時半すぎから都内ホテルで会見した高橋は「残念ですがこれで陸上が終わったわけではない」と今後も走り続けることを明言した。

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高橋派はたった1人だった。午前8時、都内で日本陸連の沢木強化委員長、桜井専務理事ら10人の選考委員によって代表選考の原案づくりが始まった。最大の焦点は抜群の実績と人気を誇る高橋をどうするか。約2時間の議論の大半をこの問題に費やした。壁を隔てて大勢の報道陣が耳をそば立てていた。明らかになったの意外な内容だった。

小掛副会長 高橋を推したのは私だけ。賛同意見はなかった。五輪のメーンは女子マラソン。国民は知っている。去年の東京国際が高橋の力ではないのに。

内定の野口、前日の名古屋優勝の土佐は記録も最上位で2番手にすんなり決定。残り1枠を1月の大阪を制した坂本、昨年の世界選手権銅の千葉、そして高橋で争った。まず、大阪で坂本との直接対決に敗れた千葉が脱落。だが、坂本を落とす理由はどこにも見つからなかった。

選考レースの順位と記録が重視された。実績でも、気象等の条件面でもない。男子も3枠目はびわ湖2位の小島忠ではなく、タイムのいい福岡2位の諏訪。男子日本最高を持つ高岡も補欠止まり。高橋に残る理由はなかった。

午後1時、高橋外しの原案を持って理事会(定員43人)の選考会議が始まった。今度は報道陣も会議室から遠ざけられた。テレビ各局の中継車が集結し、物々しい雰囲気が漂う。だが、議論はわずか約10分。反対はなく、あっという間に原案は了承された。高橋の実績を尊重し、補欠指名は見送られた。

山下佐知子理事 議論するまでもなかった。専門家が考えればこうなる。

沢木強化委員長 五輪連覇が狙える。我々も夢を描いていたが…。選びたかったが、できなかった。

増田明美理事 高橋さんを選びたい気持ちは誰にもある。高橋さんを外せばもめるけど、入れればもっともめたと思う。

結局、各理事の心も高橋外しで固まっていた。それにしても過去のドタバタ劇がうそのようだ。実績を理由に有森裕子、瀬古利彦らを「ウルトラC選考」してきたが、今回はまっとうだった。陸連は毎回繰り返されるごり押し選考に対する批判を恐れた。そして「選手を抱える指導者に明確な理由を示したかった」と沢木強化委員長は言った。日本の女子は世界一層が厚い。スター選手を優遇することは全体のバランスを崩すことになりかねかった。

高橋のいない五輪。喪失感は否めない。そんな中、沢木強化委員長は「今後、選考方法を改める考えがある」と明かした。日本陸連は、高橋外しをきっかけに体質改善に乗り出した。