高橋尚子(27=積水化学)が「金メダル取り計画」をスタートさせた。13日、日本陸連の理事会、評議員会で男女マラソンのシドニー五輪代表各3人が正式に決定。女子では高橋と山口衛里(27=天満屋)が選ばれ、市橋有里(22=住友VISA)とともに「最強トリオ」が誕生した。高橋は早くも練習を再開。小出義雄監督(60)は今日14日、合宿地視察のため米国へ出発する。男子は内定していた佐藤信之(27=旭化成)に加え、犬伏孝行(27=大塚製薬)と川島伸次(33=旭化成)に決まった。

高橋陣営が早くも、シドニーへ向けてスタートを切った。今日午後6時、小出監督が米国へ飛び立つ。今月下旬に帰国するまで、10年来使い慣れた標高約1800メートルのコロラド州ボルダーなど合宿地をじっくりと下見し、新たな拠点を探す。4月から高地トレーニングを積み、五輪仕様の体をつくり上げる。代表決定に喜ぶ間もなく、本番へ向けて「金メダル作戦」が始まった。

この日、高橋は午前7時すぎにホテルを飛び出した。「いつもなら筋肉痛やマメがあるけど、何もなく気持ちよく起きられました」。名古屋城下の名城公園で1時間のランニング。5時間足らずの睡眠でも、体がうずいた。五輪代表を決めた尾張路をかみしめた。「疲れより、今年もう1本走れるんだといううれしさの方が強いです」とはにかんだ。

吉報は東京で聞いた。名古屋から移動した午後3時すぎ。虎ノ門の積水化学東京本社で大久保尚武社長(60)に優勝報告をしている最中、テレビの速報で知った。直後、館内放送が響いた。「東京総務部より連絡します。高橋尚子選手がシドニーオリンピック代表に決定しました」。拍手と歓声でわく社内。じわじわと喜びがこみ上げた。

メダル取りの青写真は描かれている。シドニー近郊の拠点はすでに確保。五輪コースはコーチが偵察済み。小出監督は「100メートルごとにデータを取ってきてもらった。ポイントは分かっているよ。最低5回は行って、10回は走らせます」と明かした。さらに「(金メダルは)130%こだわらなきゃいけないでしょうね。下心がいっぱいあるんです」と笑った。

高橋は「監督に2時間20分を切れる練習をつくってもらい、その風の中で走ってみたい」「やるからには一番いい成績を取りたい」と世界最高と金のダブルタイトルを目標に掲げた。まずは19日、松江レディースハーフマラソン(10キロの部)に出場。金メダルへの挑戦が始まる。【佐々木一郎】

 

◆山口4カ月ぶり笑顔

山口が、約4カ月ぶりに心の底から笑った。「今までの人生で一番うれしい? ハイ。でも、まだ実感はないんですよ。ここまで本当に長過ぎて……」。前髪に隠れかけた目が潤む。当確と落選のはざまで揺れたモヤモヤがやっと消えた。高橋、市橋に負けない点を聞かれ「スタートから自分でガンガン引っ張るレース展開」と、アピールした。

東京国際で自己ベストを5分以上更新して「シンデレラガール」と呼ばれた。だが「シンデレラって、実績がないみたいで嫌いなんです。これから(実績は)築きます。それにもう27歳ですよ、私」と、笑いながらも、力強く反論した。

3月末で、天満屋の佐々木精一郎総監督が、サニックスに移籍する。「シドニーまでは何としても指導してもらいます。もう1度、喜ばせたいですから」と恩返しを誓った。予定通り4月30日のシドニーマラソンに出場してコースを試走し、五輪Vに向けた青写真を描いてくる。

 

◆内定批判にケリ

昨年11月に五輪代表に内定していた市橋は残り2人の代表決定に対して「立派な先輩方が選ばれて、心強い限りです」とコメントを発表した。3つの選考レースで2時間22分台の好タイムが連発し、一部で早期の代表内定に批判的な声もあったが、これでひと区切りとなりそう。明日15日に5週間にわたる中国・昆明合宿に臨む市橋は「お互いに刺激し合い、励まし合って、シドニーで会心の走りができたらいいなと思います」と決意を新たにしていた。

◆弘山残念1万メートルで五輪目指す

山口と代表を争った弘山晴美(31=資生堂)は、滞在していた都内のホテルで、テレビのニュース速報を見て落選を知った。知人との電話では涙を流したが、夕方には夫でコーチの勉氏(33)と東京・渋谷の岸記念体育会館で記者会見。「(過去の五輪で)代表になれなかった松野(明美)さん、鈴木(博美)さんも同じ年の生まれで……。選考には何も言えない。マラソンでの五輪出場を最大の目標に置いていたので、そのスタートラインに並ぶことができなくて残念」とうつむいた。今後は1万メートルの五輪代表を目指す。