日本陸連副会長でマラソン強化戦略プロジェクトリーダーの瀬古利彦氏(66)が、駒大・大八木監督の労をねぎらった。チームを3冠に導いた指導力を称賛するとともに、選手との親子にも似た関係作りを評価。箱根から世界を目指した選手育成に感謝した。

   ◇   ◇   ◇

大八木監督、お疲れさまでした。まずは、長年指導に携わり、多くの選手を育てたことは、本当に素晴らしい。決して簡単ではない「3冠」を達成して勇退。これまで培ってきた「駅伝力」をフルに発揮したからこその偉業といえる。

3つの駅伝は、まったく異なる。出雲、全日本に比べ、箱根は格段に距離が長い。出雲は6区45・1キロのスピードレース、全日本は8区106・8キロ。10区で200キロを超える箱根を勝つには、選手層の厚さが必要。実際、出雲と全日本の優勝に貢献した1年生の佐藤圭汰は、箱根路を走っていない。

山登りも箱根だけ。登りと下りのスペシャリストを不測の事態に備えて2人ずつ、計4人準備しないと戦えない。その意味でも、箱根だけは別物といえる。

さらに、2つ勝って3冠目に挑むためには、メンタルも重要。圧倒的に注目される箱根で優勝候補になれば、重圧も増す。いかに重圧をはねのけ、力を出し切るか。メンタル面で、特に監督の力が重要になる。

駅伝は1人で戦うのではない。いかにチームで戦うか。往路2区の田沢は体調不良だった。エースのプライドもあるし、自分のことだけを考えれば飛び出したいところだろうが、自制して確実にタスキをつないだ。仲間の逆転を信じ、チームを優先した。10区間で区間賞が1人でも、ミスなし。出雲、全日本でも全員が力を出し切った。これこそが「駅伝力」だ。

少しこわもてで、厳しさばかりが注目される大八木監督だが、選手との間には親子のような関係がある。大八木監督が父親で、同監督の京子夫人が母親。だから、駒大出身の選手は競技力だけでなく、人間力もある。厳しさは、その関係性があってこそだろう。

大八木監督は、人の話をよく聞く。とても謙虚で、頭ごなしではない。本年度の3冠も、選手たちの意見から出発した。選手の意見を吸い上げてチームを作る。その先に3冠があった。

さらに、世界を意識した指導も特筆すべき。駅伝で勝つだけでなく、多くの五輪、世界選手権代表を育てている。大学時代にとどまらず、将来を考えて指導していることが素晴らしい。

後を継ぐ藤田コーチは、大八木監督の指導を継承しながらも、自身の色を出してほしい。監督のタイプは1つではない。いろいろな指導法があっていい。選ぶのは選手。選択肢が広がることがプラスになる。

大会は来年、100回目を迎える。全国大会に踏み切るなど、少しずつ改革へ向かっている。箱根駅伝も新しい時代に向かって変わっていくべき。現状にとどまっていては、進歩もないし、発展もない。