今月1~3日に行われた飛び込み日本選手権。今年は新しい顔ぶれの活躍が光った。

まずは男子3メートル板飛び込み。日本一に輝いたのは伊熊扇季(日本体育大)だった。この結果は、本人が一番驚いたのではないだろうか。

優勝した伊熊(中央)
優勝した伊熊(中央)

というのも、予選の演技はメダル獲得にも程遠い11位。決勝進出ですらギリギリのラインだった。しかし、彼の強みは難易度。今大会に向けて新技を3つも増やしてきた。6本全てを3.4以上で揃え、特に109c(前宙返り4回半かかえ型)は3.8という高難度。日本で飛んでいる選手は彼1人だけだ。成功すれば100点近い点数が狙える大技を何本も持っているのは大きな強みである。

ジュニアの頃から頭角を表しながらも、あと1歩及ばず陰に隠れていた伊熊。それが今大会の決勝で、誰もが驚くほどの成長をみせた。代表の座を勝ち取るため、緊張感の高まる大事な1戦。そんな中で、試合の流れを自分のものにし、自身の記録を大きく塗り替える476.45点で優勝を飾った。この点数は今年の世界水泳福岡大会の4位相当に値する高得点である。

近年の日本国内のジャッジは世界基準になってきており、国内大会であってもきちんと世界で戦えるかが判断されている。その中での今回の記録は、とても評価できるものである。

常に今回の決勝で獲得した点数を出せるようになれば、世界のトップとして十分に戦える。それだけのポテンシャルがある選手なのだ。

今大会では、来年に開催されるパリ五輪の最終選考会となる世界水泳ドーハ大会の表選手選考会も兼ねられていた。しかし、予選、決勝の平均点が選考基準とされていたため、代表には選ばれることは叶わなかった。それでも、この経験が今後の彼の成長の後押しとなることは間違いない。引き続き「心技体」をしっかりと磨き、次こそは日本代表として世界で戦う姿を見せてくれることを楽しみにしている。

妹の凜(手前)に祝福される金戸快(共同)
妹の凜(手前)に祝福される金戸快(共同)

そしてもう1人。女子高飛び込みで優勝した金戸凛(セントラルスポーツ)だ。すでに世界でもメダルを獲得するほどのトップダイバーである彼女。しかし、意外にも同種目での優勝は初めてだった。5本目を飛び終え、電光掲示板に記された結果に大号泣。ここ数年は、肩や膝のケガに悩まされてきたこともあり、今回の結果は何よりもうれしかったのだろう。ようやく辿り着いた日本の頂点。世界水泳ドーハ大会への出場も決まり、また少しずつオリンピックへの道が見えてきた。

さらに、その後を追うように兄である金戸快(セントラルスポーツ)が男子高飛込で初優勝。これまでなかなか結果に結びつかなかった兄の快だったが、ここ数年で急成長。キレのある演技を披露し、堂々と表彰台の1番上へと登った。王者不在の大会ではあったものの、このチャンスをものにできた事はとても素晴らしい。兄妹でのオリンピック出場への可能性も広がり、更にモチベーションアップへと繋がったのではないだろうか。

これまで日本の飛込界をけん引してきた寺内健選手(ミキハウス)が今大会を最後に引退。大きな話題となったが、偉大な先輩の背中を見て育ってきた選手たちが今後の日本の飛込界を盛り上げてくれることを楽しみにしている。(中川真依=北京、ロンドン五輪代表)