オリンピック(五輪)で金メダルを量産する女子レスリングが、また圧倒的な力をみせた。18日までベオグラードで行われている世界選手権。女子は10階級中5階級を制し、準優勝1人、3位3人。昨年53キロ級で優勝した藤波朱理(日体大)が負傷で辞退する中、出場9人全員が表彰台に立つ圧勝だった。

結果はもちろん、その内容も圧倒的だった。50キロ級の須崎優衣(キッツ)、55キロ級の志土地真優(旧姓向田、ジェイテクト)、65キロ級の森川美和(ALSOK)は、いずれも失ポイント0。危なげなく頂点に立ったといっていい。

大活躍した女子のメンバーを見て「変わったな」と思った。出身大学をみると、育英大の現役が3人、慶大、東洋大の学生が各1人。早大卒、日体大卒、日大卒。至学館大出身は、志土地だけだった。

これまで、女子レスリングは至学館大が引っ張ってきた。五輪3連覇の吉田沙保里と同4連覇の伊調馨らが日本どころか世界をリードしてきた。東京五輪では姉妹金メダルの川井梨紗子と友香子ら6人中4人、16年リオデジャネイロ五輪では6人全員が至学館大出身選手だった。

至学館大に女子レスリング部ができたのは、まだ中京女大だった1989年。女子が五輪種目になる15年も前だった。96年には京樽などで女子の指導に実績のあった栄和人氏を招へい。国内屈指の強豪チームとして、次々と世界チャンピオンを誕生させていった。

強いチームには、強い選手が集まる。「強くなりたい」「世界で勝ちたい」と日本中から選手が集まってきた。高い意識を持った選手たちの練習は、密度も濃かった。当然のように、女子の「1強」になった。

スーパーチームができるのは、競技力を向上させるためにはいい。ただ、対抗するライバルも必要。複数のチームが健全に競い合ってこそ、レベルアップにつながる。「1強」が長く続くことは、決してプラスばかりではなかった。

至学館大を率いた栄監督が日本協会強化本部長として強化のトップに立ったころから、強化体制はぎくしゃくしていた。伊調馨へのパワハラ騒動で表面化したが、もともと大学監督が日本全体の強化のトップに立つことが不自然だった。

「騒動」の影響もあったのだろう。女子レスリングは「群雄割拠」の時代に突入した。24年パリ五輪の代表争いは、今年12月の全日本選手権から始まる。来秋の世界選手権上位5選手の国に出場枠が与えられるから、特に女子は次の世界選手権代表になることがパリ五輪への近道になる。

50キロ級の須崎は頭1つ抜けた感じだが、53キロ級、57キロ級、62キロ級は至学館大出身の東京五輪金メダリストと他勢力の世界女王の争いになる。「1強」を脱却したことで、日本の女子レスリングはさらに強さを増しそうだ。(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

藤波朱理(2022年6月23日撮影)
藤波朱理(2022年6月23日撮影)